WEBメディアが実空間で「問い」を共有し、集まった人たちとの対話を通して、言論空間を創造する、+5メディアプログラム。2024年12月に開催したvol. 3では「アートスクールミーティング」と題し、特に関西で近年アートスクール事業、あるいは多ジャンルの人々と共創プロジェクトを実践してきた、山下和也さん(C.A.P.|芸術と計画会議)、山本麻友美さん(京都芸術センター)、矢津吉隆さん(kumagusuku)という3人をゲストにお招きし、参加者も交えて対話を重ねた。
C.A.P.は1994年から、アートを媒介にして対話の場を形成することを社会に必要な機能であると捉え、特にアーティストが主体となって神戸で立ち上がった組織だ【※1】。現在は神戸の「海外移住と文化の交流センター」の中に拠点を構え、様々な活動を実施している。そんなC.A.P.は数年前から、「CAPのこれから」というミーティングを始めて活動の広がりを模索しており、その中でスクール事業の構想が立ち上がった【※2】。
その背景には、アーティストの集まりであるC.A.P.が、アートを深く鑑賞してくれる「能動的な鑑賞者」を自分たちで周囲に増やす取り組みが必要という考えがあったそうだ。しかしそのためには、C.A.P.だけではなく、神戸のアートスペースやコミュニティ同士の連携も重要と考えた。山下さんによると、神戸にはC.A.P.だけでなく、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)、新開地アートひろば(旧・神戸アートビレッジセンター⦅KAVC⦆)や、NPO法人DANCE BOXなど様々なアートスペースやコミュニティがあり、場所ごとに利用者、鑑賞者がいるが、その鑑賞者同士が繋がっていったり、互いのアートスペース同士も巻き込んで何かをすることは今までほとんどなかったという。そのためスクールを通して、ジャンルを超えてアーティストを含む鑑賞者同士の繋がりが広がるような場づくりができればと考えていた。
C.A.P.は2023年12月から、試験的に「CAP STUDY」という数か月の「芸術鑑賞のための講座の実験」を行い、そこでの反省や学びを土台に、2024年10月に約半年間のスクールプログラム「ARTS STUDY」を立ち上げた。「ARTS STUDY」は美術、音楽、ダンスの3ジャンルで、芸術鑑賞を様々な視点で掘り下げるスクール事業であり、講師として神戸ゆかりのアーティストや研究者、学芸員などを招き、多様なラインナップの授業を用意している。
京都芸術センターの山本さんは、アートセンターの立場から、今まで多くの鑑賞プログラムやレクチャーを地域に開いてきたが、活動の限界も、少し感じ始めていたと言う【※3】。京都芸術センターに来る人は、当然アートに関心のある人が多く、ファンもある程度固定化する。そのためアートだけではなく、伝統文化関連のイベントなど、様々なジャンルで事業を実施し、ファンを広げたり、ファン同士を繋げようとしてきたが、「何となく緩やかに同じ場にいるが、繋がらない」という悩みを抱えていたそうだ。
そんな折に、運営母体である京都市から提案があり、今まで関わりの薄かった企業やビジネスパーソンとのコラボレーションを提案される。果たしてそれがセンターにとっていいことなのかどうか、様々な葛藤もあったというが、新たな関係性や広がりに期待し、「UTSUWA」という新しい取り組みを始めた。
UTSUWAには、大きく分けて3つの事業がある。ひとつ目の「マッチング事業」では、アートとビジネスに関する相談窓口が設けられており、ビジネスパーソンとアーティスト、双方の相談先となっている。例えばビジネスパーソン側からは、アーティストやクリエイターとのコラボレーションの相談があったり、アーティスト側からは起業することや、企業との接点を模索する相談などがあるという。ふたつ目の「セミナー・交流会」事業では、従来のアートファン向けのプログラムと少し趣向を変え、ビジネスパーソンや、アートに触れてこなかった人向けのプログラムを組み、学びの会を開いている。具体的にはトークイベント、セミナー、ワークショップと様々な形式があり、「アートスクール」的な動きを始めているそうだ。最後のひとつは、「事業開発」で、アーティストと共に、企業向け研修プログラムの開発などを行っている。地域に開かれた公共のアートスペースだからこそ、場所のあり方は常に模索していると山本さんは言う。
kumagusuku【※4】の矢津吉隆さんは、京都の6つの芸術拠点と京都信用金庫が協力して創設した社会人のための芸術学校「BASE ART CAMP」をディレクションしていた【※5】。2022年3月に創設された同プログラムは、学習を登山に見立て、半年間のプログラムを提供した。最初の3か月にある「順応編」では、山歩きをするようにアートの様々な様相を発見し、残り3か月の「登頂編」で、美術ルート、音楽ルート、演劇ルート、写真ルートなどのジャンルに分かれてそれぞれの表現を追及していく【※6】。
矢津さんはBASE ART CAMP設立数年前の2019年に、「クマグスクのアート×ワーク塾」というkumagusuku独自のスクールプロジェクトも立ち上げた経験がある【※7】。 当時話題となっていた「アート思考」というものをアーティストの目線で再解釈し、Magasinn Inc.の岩崎達也さん、美術家の田中英行さんと共に立ち上げたものだ。プログラムには、食やファッション、銭湯文化などに触れる機会もあり、「アート」という枠組みを問い直す斬新なプログラムで構成されていた。残念ながら、新型コロナウイルス到来と共に立ち消えてしまったが、そこでの学びがBASE ART CAMPに繋がったという。
矢津さんは、スクール事業実施にあたり、元々自分の中に、「アーティストの社会的な役割とは何か」という問いがあったから始めたのだと話す。アーティストは、作品を作って売ることを目的に生きていくしかないのか、他にもできることはあるのではないかという思いがずっとあったそうだ。特に矢津さんは彫刻出身だが、インスタレーションや大型の作品など、なかなか買い手のつき辛い作品を作ってきたこともあり、マーケットを意識しながらずっと生きていくことに懐疑的だったそうだ。アーティストの社会における役割を再認識するためにも、そもそもアートとは何か、スクールを通して再考したかったのだという。
スクールや共創プロジェクトなどの新たな事業を始めたことで、自分たちの場所を見つめ直すきっかけにもなったとゲスト全員が話す。
スクールを始める前からkumagusukuというスペースを持っていた矢津さんは、スペースを地域に開くことで、それまでと違うコミュニティに接続されたことを感じたという。その手応えはスクール事業を実践した時にもあり、アートワールドでは出会わない種類の人々が多くいて、対話から生まれるものやことの重要性を再認識したそうだ。それ以降矢津さんは、特に他の領域の人と関わる機会を大切にし、常に共創の機会も探している。
ARTS STUDYも同様で、実験段階のCAP STUDYの頃は、C.A.P.の拠点で開催していたが、ARTS STUDYからは、三宮駅近くのURBAN PICNIC(アーバンピクニック)や、ArtTheater dB KOBE(DANCE BOXの運営施設)など、自分たちの場所以外でも開催をしている。CAP STUDYを実施した際に、参加者として来場したのは、C.A.P.をよく知っている人たちだったこともあり、新しい出会いも求め、能動的に自分たちから街中に場を開きにいくことにチャレンジした。
また山本さんは、UTSUWAを始めてしばらくしてみて、もしかしたら今までは、長く続いてきたセンターの歴史や、常連の人たちに甘んじていたかもしれないと感じたそうだ。「公共の施設として、新しいお客さんもどんどん開拓していく役割があるかもしれない」と山本さんは言う。場所の歴史が長くなれば、一定のコミュニティもでき、何かをするにも前例踏襲的に実施できてしまう側面もある。しかしUTSUWAという全く新しい事業をすることによって、長い歴史を持つ場所であっても、まだまだ新たな広がりはあるのではと再認識したそうだ。
アートスクールにおいて、プログラムを共にする参加者は重要だ。むしろ参加者を想定してプログラムを作ると言っても過言ではない。イベントの中では、それぞれのプロジェクトでどういう人を対象にしているか、ペルソナの立て方や悩み、どう情報発信をしていたかなどの共有がなされた。
BASE ART CAMPは、「働き生きる人のための新しい芸術学校」というキャッチコピーの通り、社会人向けの芸術学校と銘打っている。特に立ち上げ段階では経営者や感度の高いビジネスパーソンを対象としており、現代をサバイブするひとつの方法として、ビジネスパーソンの観点でアートを捉え直してほしいという願いがあった。しかし実際開校してみると、1期生、2期生共にペルソナとしていた人も参加したが、大多数はアートファン、あるいは表現から離れていた人や、制作に挑戦したいと思っていた人などニッチな層にもミート。ペルソナの設定に差異があったからか、2期生の募集時は期限までに最低開講人数が集まらず、開催時期をずらして実施することになり、運営サイドが想定していた参加者と、実際のそれにズレがあることは痛感したと矢津さん。
ARTS STUDYの場合は「鑑賞の講座」ということもあり、対象とする人々の層が広いことが利点でもあり、苦戦するポイントでもあると山下さん。実験段階のCAP STUDYの際は制作に関わる人や、C.A.P.馴染みの人が参加者に比較的多かったこともあり、先述の通り、以降は街中に出て幅広く「鑑賞者」を広く獲得する動きを展開した。授業内容も、ひとつの領域でリーチするよりも様々な鑑賞者の受け皿となるよう、音楽やダンスなども含めて展開。さらにひとつの授業ジャンルの中でもレパートリーを増やし、「鑑賞」に関心のある人がどこかにマッチするようにはなっている。授業を全て受講する人にはディスカウントを、加えて単発受講も可能にしてかなり広く参加者を集めようとしていた。しかしながらそう設計することで、人気の講座とそうでないものの差が出てしまい、対象者をどう設定するかについて悩みはつきないとのこと。
一方で山下さんは、地域の人に参加してもらうことの重要性についても話す。ARTS STUDYでは、特にアートの授業で、戦後からの神戸の歴史を紐解く授業がいくつかあった。身近にありながらも知らない、気付いていない地域の歴史を、アートによって掘り起こす感覚を神戸市民にも持ってもらえると山下さんは感じたそうだ。また、アートも「身近なもの」として、参加者との距離が縮まったり、つながることも感じたという。
UTSUWAの事業では、対象とするビジネスパーソンをはじめ、今まで中々出会えなかった人たちに会えたことが良かったと山本さん。アート活動は言語化しにくく、公共の施設として「成果」を求められた時に、なかなかその可能性や魅力を、うまく説明できないもどかしさを抱えていたそうだ。山本さんは過去、「KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション」【※8】という企業とアーティストがタッグを組んで作品制作を行うイベントのディレクションを担当しているが、その際に、改めて文化を大切に考えてくれている人が、文化芸術活動に関わる人以外にもたくさんいるのだということを実感したという。ただ関係者としか会わない環境の中では、その当たり前の事実すら信じがたかったそうだ。だから芸術センターとして、今まで関わりがなかった人たちの視点は貴重で、あとはその人たちに向けてきちんと場や機会を開き、繋がっていくにはどうすればいいか考えているという。
イベント内では、行政や民間企業、個人などがまとめたいくつかのデータを用いて、社会人がアートを学ぶことの動機や障壁についても議論がなされたが、ここで改めて現代の日本人の学習への向き合い方について、いくつかのデータを元に見ていきたい【※9】。
まずパーソル総合研究所がまとめた「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」【※10】を見ていこう。日本人は、成人してからの学習時間が極端に少なくなるとよく言われているが、本調査では世界18か国の社会人の学習状況と、日本のそれを比較してみることができる。レポート内の「社外の学習・自己啓発」の項目において、勤務先以外の学習先として「大学・大学院・専門学校へ通っている割合」も、自身で学びの場を作るような「勉強会等の主催・運営をしている割合」も日本は各国最低レベルとなってしまっており、また「とくに何も行っていない」割合については、逆に日本が52.6%とトップになる(特に自己学習をしていない割合が、過半数を超えているのは日本のみである)【※11】。レポートでは自己投資意識の低さについて言及されているが、それくらい日本人の学びに対するハードルはなぜか高い。
では日本の社会人は何に時間を使っているのだろう。総務省の「令和3年社会生活基本調査」【※12】によると、1日の生活時間の中で多くを占めるのは、睡眠や食事などの1次活動、そして仕事などの2次活動だ。そこに自由時間で構成される3次活動が続き、その中には「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」などに当てる時間が2.15時間、「休養・くつろぎ」の時間が1.37時間と続く。特に後者は前回の2016年の調査よりも増加しており、コロナ禍を経て、ノマドやワーケーション、リモートワークやフレックスなど、個人が自由に時間を使える比率が増えたことなどが起因しているのかもしれない。ちなみに調査対象者約19万人のうち、1日の生活時間内で「学習・自己啓発・訓練(学業以外)」に当てている時間の平均は、わずか13分という結果もでている【※13】。
自己学習を行う層が、そもそも多くないというのは前述の通りであるが、一方で学習している層もいることは事実だ。その人たちはどのようなことを目的に、どんな学びを実践しているのか。トークでも議題として上がった株式会社ベネッセコーポレーションのUdemy(ユーデミー)事業部が、受講生向けに調査した「社会人の学びに関する意識調査 2022」【※14】によると、学習経験がある人の学習目的の上位が「趣味・教養のため」(45.7%)であり、次いで「仕事で必要な知識・スキル習得のため」(35.2%)、「将来のキャリアアップのため」(26.2%)と続く【※15】。さらにその中で学習項目をわけていくと、資産運用や英語、IT関連などの学習に占める割合が大きく、仕事や実生活で役立つものを学ぼうとする人が多いことがわかる。アートは学びの対象というより、趣味や娯楽と考える人も多いので、このような統計調査に項目として出づらいという事実もあるし、そもそも「アートを学ぶ」こと自体、フレーミングしがたい。
このような状況の中で、「アートを学ぶ」とはどういう意味を生活や仕事にもたらすのか、先述の調査も踏まえて議論がなされた。
矢津さんは「わからないことを考える面白さ」と「ケア」について話す。現代はVUCA、最近ではBANI時代と言われ、ますます未来の見通しが立ちづらく、変動的な世の中になってきている【※16】。ここ10年でいくつかの戦争が始まり、世界情勢はますます不安定になっている。また深刻化する気候変動、社会問題・運動など、考えるべきことは多い。多忙な毎日の中で、それらのいくつかは「わからないこと」として片付けられてしまうことも多いし、そんな大きな話でなくても個人が抱える小さな「わからなさ」も多い。矢津さんは、そんなあらゆる「わからなさ」に向き合うひとつの手法として、アートの可能性を提示する。アートがそれらを「解決」できるわけではないが、向き合い方を考えるひとつのきっかけにはなるかもしれない。
またアートが自分の感情を代弁してくれるような感覚もあるという。その感覚の中には同時に「ケア」の役割もあると矢津さんは話す。それゆえにアートを学ぶことは、救いにもなるのではという話がでた。しかしそんなアートを、ひとりで深く知ろうとすることは時に難しいかもしれない。だからこそ、誰かと共に考えるスクールが大切なのではと矢津さんは話した。
山下さんもそれに同意し、アートが何なのか、少しずつでも知っていくことで、アート自体も「わからないもの」ではなく、日常とつながることに気づくと指摘する。美術館などのアートスペースの外でアートに触れることで、それを再認識できるチャンスになるのではとも話した。特にARTS STUDYのように、クロスジャンルでアートを学ぶことで、その気づきを知覚してもらえるのではと山下さんは言う(筆者がARTS STUDYの前身、「CAP STUDY」に参加した際に得た学びはまさにそのようなものだった)【※17】。
山本さんも、京都芸術センターは矢津さんや山下さんが行っている「民間」のカテゴリーには入らず、「公共」側の存在だからこそ、ジャンルをあえて縛らない取り組みで、多くの鑑賞者の受け皿となること、人々がアートに触れる、魅力に気づくことのできるきっかけになればいいと話した。
イベントの中で繰り返し課題として上がっていたのは、対象となるような人たちに、「どうリーチするか」であった。英語を学ぶことや資格のための学習と違い、それそのものが分からないと言われてしまう「アート」を学ぼうとする人たちとは、そもそもどんな人たちで、どんな目的を持っているのかをゲスト・参加者で考えた。
ちなみに筆者は、2023年にBASE ART CAMPのモニターとして参加し、終了後に運営サイドにレポートを提出したのだが、その際に受講生はじめ、BASE ART CAMPが対象としているビジネスパーソンがアートを学ぶことに対して何を考えているか、20代〜60代までのビジネスパーソン60人を対象にアンケートを実施した【※18】。その中で、アートを学びたい人の動機として、最も多かった理由が「社会でアートがどのように機能しているか」であり、次に「アートの“価値”について(資産的価値、文化的価値、社会的価値など)知りたい」が続いた。この結果に頷く参加者も多かったが、ここでまさにアートを学ぶことそのものに興味を持っていた参加者の声も少し紹介したい。
大手メーカーで新規事業の企画推進を務めているという方は、アートと新規事業との親和性について語りながら「ユーザー」を知ることの重要性を話した。一般企業の製品やサービスは基本、対象とするユーザーの課題解決のためにある。そのためまずはマーケティングを行い、徹底的にユーザーについて分析していく。それと同じようにお金をかけて、アートを学ぶ人たちを徹底調査し、カテゴライズすることは難しいかもしれないが、それでもアートに触れたい、関わりたいという人たちとはどのような人たちなのか、なんとか知ろうとすることがまず重要という話がでた。また、アートを学ぶ魅力として、アートを見ることでアーティストの考えや、人間そのものの考えのバリエーションが見れることをその人はあげる。
上場企業で経理財務を行っているという別の参加者は、自身の職業特性をルールの中で厳密に物事を進める「守り」であると話し、アーティストは新しいものを創り出す「攻め」の側面を併せ持つので、アーティストと話すと、単純に自分と性質の異なるものに触れられる楽しさがあると話す。その方は「日常を送っていると、自身の固定化された性質に、知らず知らずのうちに無自覚になっていく」ことへの危機感にふれ、アートには固定観念や常識のようなものを、一度見直させてくれる力があると語った。
アートスクールに参加する人たちは個別の目的があり、それは資格勉強の目的のように、必ずしも共通のものではない。全てに合わせることは難しいが、それでも一度繋がった人たちと、どのように繋がり続けていくのか、最後に議論がなされた。
矢津さんはBASE ART CAMPの経験から「仲間づくり」の重要性について話す。同スクールの卒業生の多くが、体験して最も良かったことのひとつに友人や仲間ができたことをあげており、アートについて対話できる「他者」の存在の重要性を改めて感じたという。また講師が魅力的であることなど「人」にフォーカスすることも重要だが、自分たちが繋がろうとするだけではなく、生徒同士の横の繋がりを意識することが特に大事だと矢津さんは実感している。
山本さんはそのためにも、場所が果たす役割も大きいと語る。知識を得るだけならオンラインで十分だし、効率的でもある。しかしその場所に行くことで、人間関係含めて何かが生まれるという可能性を感じてもらうことができ、人と人との共創的な対話を、場所が最大化できると話す。またファンと繋がり続けることは重要だが、山本さんは過去、繋がり続けるための枠組みを作ろうとして、うまくいかなかったと話す。京都芸術センターは、行政の組織ということもあり、3年任期でコーディネーターが入れ替わる。職員その人との繋がりで来ている人もいるがゆえに、一定期間で関係性が切れてしまうという課題を抱えている。そんな中で長年継続的に活動を行うボランティアの方々が果たす役割や可能性は強く感じていると山本さん。京都芸術センターが好きで、アーティストたちを応援したいと言ってくれているその人たちと、長く関係性を保てるような仕組みも大切であり、長く続いている場所だからこその「財産」を再認識し運営しなければならないと語った。
山下さんは場所の重要性については、30年以上続くC.A.P.で活動する中で強く実感する一方、場所と人との関係性も固定化されていき、繋がりが広がらない側面も一部あると話した。そのためARTS STUDYでは、自分たちの場所がありながらもあえてビジネス街で講義を実施したり、自分たちのコミュニティの外部である近隣の他のアートスペースと提携したり、場所を変えて、その場所と繋がっている人たちとつながろうとしている。京都芸術センターのような公的な組織はなかなか簡単にできないが、山下さんや矢津さんのような民間の活動の場合はそのように違うコミュニティと繋がり、一緒にアートを伝えるという活動も重要である。
質疑応答の際、参加者の芸大生に、「社会人になってアートを学べる場が、どんな場所だったらいきたいか」と問うと、「アートの話から関係のないことまで、誰かに話を聞いてもらえて、かつ学びもあるならそれだけで嬉しい」という返答があった。スクールや共創プロジェクトに求められているのは、もしかすると何を伝えるかということよりも、世代や立場の異なる人たちが集まるからこそ、双方向に作用する「対話の場」として機能することなのかもしれない。
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ARTS STUDY
2025年度の事業はより新しい講座内容で8月末から開始する。7月中に今年度の受講生の募集をウェブサイトで開始予定。今年度はショートゼミ形式を中心に、平井章一、藤本由紀夫、林寿美、福元崇志、榎忠、秋山伸、岡登志子などが講師を務める。また単発講座では稲垣智子、飯川雄大、中間アヤカ、山根明季子と分野を横断してミドルキャリアのアーティストが登壇する。神戸三宮付近のKOBE STUDIO Y3、BARまどゐなど複数の会場で各講座を開催するほか、読書会や交流会など講座に限らないつどいも開催する。
本講座を前に、既に昨年のARTS STUDYから派生して、5月31日にOAG Art Center Kobeで1日だけの展覧会、ダンス、音楽のパフォーマンスイベント「ARTS PARTY 日日の声₋Daily Voices」や6月13日に今年度のメイン会場のひとつとなるBARまどゐでプレ講座「Artist Study 1 築山有城(彫刻家/C.A.P.代表)」を開催した。
インスタグラムはこちら
(URL最終確認:2025年7月9日)
アート×ビジネス共創拠点:器
年間を通して様々なイベントが実施されている。京都芸術センターのHPでも情報発信がなされているので、合わせて確認したい。
(URL最終確認:2025年7月9日)
BASE ART CAMP
現在休止中だが、矢津さんは「京信リーダーシッププログラム」はじめ、不定期にアートを学ぶことやアートそのものについての対話の場を形成する役割を市内で果たしている。
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※1】 C.A.P.の歴史や取り組みについては過去、+5で記事にしている。今回のゲストの山下さんについては主に後編でお話を伺っている。
「アーティストの連帯が街に浸透するC.A.P.(芸術と計画会議)の試み<前編>」
「アーティストの連帯が街に浸透するC.A.P.(芸術と計画会議)の試み<後編>」
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※2】詳細はこちらの前半部分に記載しているので参考にされたい。
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※3】 山本さんについては過去、+5で取材し、京都芸術センターについても詳しく伺っている。
「次世代のアーティストとアートに携わる人材を育てる京都芸術センター」
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※4】kumagusuku
「展覧会に泊まる」というのをコンセプトに瀬戸内国際芸術祭で立ち上がったプロジェクト、「kumagusuku」はその後2015年に京都は大宮にアートホステルとしてスペースを構え、2021年には様々なショップが集う、複合施設へと変化。2025年4月末をもってスペースは閉店。
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※5】BASE ART CAMPについては過去、+5で取材をしている。
「京都だからこそ生まれた社会人向けの芸術学校 BASE ART CAMPの挑戦」
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※6】 1期生はこちらに加え、映画ルートがあり、実際に1本の短編映画を受講生と講師で作り上げた。
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※7】クマグスクのアート×ワーク塾
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※8】 KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※9】 なお、イベント内で用いられたデータは、株式会社ベネッセコーポレーションのUdemy(ユーデミー)事業部が調査した「社会人の学びに関する意識調査 2022」のみで、本項では補足のためにパーソル総合研究所と総務省のデータを追加する形で記載している。
【※10】 グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※11】 同レポート119p~121p参照
【※12】 令和3年社会生活基本調査の結果
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※13】本調査では、全国から無作為に選ばれた約9万1千世帯の中で10歳以上の世帯員が対象となっているため、必ずとも成人、社会人を対象にしたアンケートではない。ただ学習することが課されている学生が入っていてなおこの時間というのは、なんとも心許ない。
【※14】社会人の学びに関する意識調査 2022
UdemyはUdemy(ユーデミー)は、2009年にアメリカで設立&サービス提供を開始したオンライン動画学習プラットフォームであり、世界で6,200万人以上のユーザーがいると言われている。2020年2月にベネッセコーポレーションとUdemyが資本提携を締結。両社は2015年に包括的業務提携契約を結んでおり、法人向け研修サービスなども行っている。
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※15】「学習経験があり、かつ学習意欲あり層」の数値。本調査では、「学習経験ありかつ学習意欲なし層」との数値わけも細かく行われている。
【※16】「VUCA(ブーカ)」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた言葉で、現在の社会経済環境が極めて予測困難な状況に直面しているという時代認識を示している。
BANIはBrittle(もろい)、Anxious(不安)、Non-Linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)を繋ぎ合わせた言葉である。パーソル総合研究所が詳細をまとめているページがあるので、以下を参照されたい。
BANI(バニ)とは?―BANIから見えるVUCAとは違う世界
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※17】 CAP STUDYについては筆者が過去、体験を3本立てでレポートにしているので、関心のある方は以下をご覧いただきたい。
CAP STUDY|レポート① ダンス
CAP STUDY|レポート② 美術
CAP STUDY|レポート③ 音楽
(URL最終確認:2025年7月9日)
【※18】 20代〜60代のビジネスパーソン向け(年最低1回以上、美術館やギャラリーに行く人)にアンケートを実施。15の質問を元に、ビジネスパーソンがアートを学ぶ際に何を求めているのか探った。
NPOでの国際協力活動、教育業界での経験を基軸にライター・編集者として経験を積む。近年はアートを通した言論空間の拡張をキーワードに様々なプロジェクトを実践し、現代社会におけるメディアの役割を再考している。+5(plus five):編集長、ICA Kyoto Jounal:Editorial Director