アートネイバーとは何か?

アートネイバーとは何か?

2023.07.05
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+5は、アートと鑑賞者をつなぐ人々をアートネイバーと位置づけ、掘り下げていくウェブメディアである。ネイバーとは隣人の他、仲間といった意味でもあるが、それらの具体例を挙げることで、アートネイバーを志す人々の指針となり、新たな仲間を増やすことなどを狙いとしている。しかしアートネイバーとひとえに言っても多種多様であり、その様相を正確に掴むことは難しい。そもそもアートでという単語ですら曖昧である中で、「アートネイバー」としてくくるとさらに輪郭がぼやけ、全体象が見えにくくなることもあるのではないだろうか。

そこで今回は、日々拡大するアートの生態系の中で、本メディアがどのような役割の人々を取り上げているのか、役割別に整理していきたい。

記事内のイラスト:森夕香

アートの職業とアートネイバー

少し遡って、昔から存在するアート業界で働く人々について挙げてみよう。まず中心となるのはアーティストだろう。日本においては、院展や日展で活動していた作家ではなく現代美術を専門としている作家の場合、アーティスト専業の者は、ほとんどいなかった。特に戦後においては、作品の販売だけで生活できるくらいの市場規模ではなかったため、大学や高校の美術教員をしながら、制作を続けているケースがほとんどだったといってよいのではないか。今日では、海外に拠点を移したり、国際的に活躍したりするアーティストも増え、専業のアーティストも多数存在する。ただし、アートフェアやオークションで作品が高額で取引されるアーティストが登場するいっぽうで、主に芸術祭や美術館で発表するアーティストたちに、十分な報酬が支払われないという問題も抱えている。特にインスタレーションのような空間に仮設的に配置する作品の場合、そもそも販売で利益を得るのは難しい。近年では、映像インスタレーションも増えているし、リサーチ・ベースド・アートと言われる地域や社会のリサーチを元にした作品や、ソーシャリー・エンゲイジド・アートと言われる地域への関与やその過程を表現する作品も増えている。それらも基本的に販売は想定されていないが膨大なコストがかかる。個人事業主として、あるいは法人としてのアーティストという職業、労働の待遇改善は現在進行形の課題である。そのような状況の中で、本メディアで紹介している、宿泊型アートスペースkumagusuku(現在は複合店舗)を運営している矢津吉隆氏のように、アート活動の中に商行為を組み込んで持続的な創作活動を行っているアーティストや、サウンドアーティストの神谷泰史氏のように、創作活動の経験を活かして、企業の新規事業や産学連携のプラットフォームをつくることで、アート、デザイン、ビジネスを媒介している者もいる。それらはアーティストが自らアートの活動を自分ごとから社会に広げ、アートネイバーになっている例といえるだろう【※1】。

次に美術館で働く学芸員。主に展覧会を企画する人々だ。欧米ではキュレーターと称されており、近年国内の学芸員もキュレーターと呼ばれることは多い。しかし、日本の学芸員は雑芸員と呼ばれるほど、さまざまなことをしなければならないと言われている。例えば、日本の学芸員は、展覧会の企画や研究を行うキュレーターのほかに、欧米では専門職として切り分けられている、作品の管理をしたり、作品の貸し借りなどするレジストラーや、作品の保存修復を行うコンサベーターを兼ねていることも多い。本メディアの展覧会図録特集で紹介した豊田市美術館の千葉真智子氏【※2】は学芸員であるが、多くの業務に携わっていることがわかる。

美術館の運営に関して言えば、アメリカの場合は、公立の美術館がほとんどなく、寄付によって成り立っていることが多いため、資金調達も大きな役割になる。美術品の購入や寄付は税制が優遇されていることもあり、富裕層との結びつきも強い。ヨーロッパは行政による運営が主だろう。日本の場合は、公立も私立もあるが、近年公立の美術館の予算が減らされたり、運営が企業やNPOに委託されることも増えてきたため、運営費を補うために、京都市京セラ美術館のようにネーミングライツ(施設命名権)を販売したり、チャリティオークションなどの資金調達を行うケースも出てきている。また、本メディアでも取り上げた大阪中之島美術館【※3】のように、行政と企業が資金を出し合うPFI方式が採用される例も出てきている。大阪中之島美術館は展覧会の企画などをする学芸員の業務と、広報や施設の管理、ホールの貸し出しなどの運営業務は切り分けられている。さらに、中国や中東、新たに台頭してきている東南アジアの諸国でも様相は異なるだろう。

美術館などのハコに所属している学芸員とは別に、フリーで展覧会を企画しているキュレーターもいる。それらは インディペンデント・キュレーター と称されている。インディペンデント・キュレーターは、作品を購入したり、保存管理したりする役割は担わない。展覧会の企画を主として行っており、特に価値のまだ定まっていない存命のアーティストと対話をしながら、展覧会を一緒につくりあげていく点が特徴だろう。日本において、キュレーターという名前が浸透するきっかけは、ゲント現代美術館(ベルギー)の創設者であるヤン・フートがワタリウム美術館の主催によりキュレーションを行った「視覚の裏側」展(1991年)や「水の波紋」展(1995年)などの一連の展覧会の影響が大きいだろう。ヨーロッパにおいては、1969年にハラルト・ゼーマンが企画した「Live In Your Head: 態度が形になるとき」展が、インディペンデント・キュレーターの起点となる展覧会といえる。ハラルト・ゼーマンが、ドクメンタやヴェネチア・ビエンナーレなどのさまざまな国際展の芸術監督に就任しているように、国際展の存在とインディペンデント・キュレーターの活動は連動している。近年は、大小さまざまな芸術祭や展覧会が実施されており、多くのインディペンデント・キュレーターが活躍している。美術館ではない施設や団体でもキュレーターは活動している。本メディアで紹介したコダマシーンの金澤韻氏やHOTEL ANTEROOM KYOTO前支配人の上田聖子氏、山中suplexの堤拓也氏も新しいタイプのキュレーターといえる【※4】。

そして、画商。いわゆる美術商はアート作品を売買するアートディーラーであり画廊、ギャラリーを構えて展覧会を企画・運営したり、アートフェアに出品したりする人々はギャラリストと言われる。いっぽう日本では多くはないがアートアドバイザーとしてクライアントの依頼に応じて作品を売買するプライベートディーラーがいるが、百貨店の美術商はそれに近いかもしれない。ギャラリーは、商慣習として売上の50%を徴収する。その割合について、少し前、ツイッターで話題になったことがあったが、これが何を根拠にどこから始まったのかわからない。しかし、展覧会にかかる諸費用は、ギャラリーが持ち、販売しなければ投資だけして回収できないので、必ずしもアンフェアというわけでもないだろう。それもアーティストとギャラリーの力関係によるところが大きい。国内のギャラリーは、あまり契約書をつくることはないが、近年では、どの程度の条件で販売するか、事前に契約するケースも出てきている。そのような契約のサポートを行う弁護士や法律家が出てきていることも注目に値する。

先にあげたようなギャラリーや画廊は、コマーシャルギャラリーとも言われている。つまり作品販売のビジネスを行うギャラリーのことなのだが、逆に言えば、コマーシャルではないギャラリーも存在する。典型的なのが貸画廊だ。貸画廊は欧米にはないシステムだと言われているが、日本ではアーティストがお金を出して一定の期間画廊を借りて展覧会をするという貸画廊が主流だった。現代美術の作品が売れることはほとんどないからだ。これは推測にすぎないが、当時、前衛芸術を志していた作家の主な舞台は、読売アンデパンダン展(1949年~1963年)などの無審査の展覧会で、お金を払えば展示することができた。読売アンデパンダン展などが相次いで終了したこともあり、そのシステムが外部化したのが、貸画廊なのではないかと考えている。貸画廊は、1970年代から2010年代くらいまで現代美術の主となる発表の場であったが、芸術祭やアート市場が勃興し、コマーシャルギャラリーが増えたこともあって、徐々に変化していった。本メディアでも紹介した松尾惠氏の運営するヴォイスギャラリーも、貸画廊と企画展、販売などさまざまな取り込みを行っている【※5】。

さらに、古くからある職業としては、美術評論家、いわゆる批評家という存在がある。戦後は、戦前から活動する詩人・美術評論家の瀧口修造後、美術評論の「御三家」と言われた針生一郎、中原祐介、東野芳明などが知られている。彼らが主な舞台としたのは商業雑誌である。『美術手帖』はその代表例といえる。1970年代になり、『ぴあ』を代表とする情報誌や文化雑誌が発行されるようになってくると、そこにももう少しライトな読者向けに展覧会の紹介記事を書くライターが登場する。それがいわゆるアートライターの原型であろうと思う。アート〜という職能のはしりといえるかもしれない。しかし、アートライターと言ってもそれを専門とするほど媒体の数は無く、アートライターの多くも、アート業界のみでライティングを行っていないケースの方が多いだろう。アートジャーナリストと名乗る人も同様である。アートジャーナリストは、評論や紹介というよりも、より客観的でジャーナリスティックな姿勢であり、例えば本メディアで紹介した小崎哲哉氏は、日本でも有数のアートジャーナリストといってよいだろう【※6】。

美術評論家、美術史家、美術記者(アートジャーナリスト)、アートライター。すべてアートを書く仕事だが、何が違うのか?もちろん書く内容が少しずつ違うといえるが、大きく言えば主となる書く媒体が違うといった方がわかりやすいかもしれない。美術評論家は商業誌・専門誌、美術史家は学会誌、美術記者は新聞、アートライターは情報誌といったところだろう。最近では、アートブロガーと言われるような、自身のブログを主な媒体する方もいる。それぞれ評論、論文、報道、広報、エッセイといった形式が主となるが、当然のことながら書き手の資質によってそれらの形式が混ざり合うこともある。

近年では、商業誌・専門誌、情報誌など紙の雑誌媒体は売上の低迷により廃刊が続いている。その代わり、ウェブマガジンに置き換えられたり、創刊されたりしているが、単価も安く雑誌のような質と量は求めることは難しい。現代アートが注目を集めるなか、難解な現代アートに関する文章は不可欠であり、どのようなライティングや媒体が継続可能なものになるかはこれからの課題だろう。

出版では、美術出版という、商業誌や専門誌とは異なるが、美術書を専門とする出版社もある。主に美術作品の書籍や展覧会の図録などを制作しており、美術出版を担う編集者やプリンティングディレクターも、アートネイバーといえる。特に、近年では展覧会図録を市販流通する場合もあり、学芸員と協力して図録制作を行ったりしている。美術書の場合、それ自体が作品性を帯びるため、美術書が得意なデザイナーが担当する場合が多い。彼らは特に「アートデザイナー」などと混乱する名称を自称するわけではないが、フライヤーやポスター、ハンドアウトも含めた広報、記録物一式を担当する場合もある。+5でインタビューした大西正一氏もそのような美術書や図録のデザインに長けたデザイナーといってよいだろう。また、そのような特殊な加工や印刷を要する美術印刷が得意な印刷所も必要である。同じくと特集記事で取り上げた大伸社のグループ会社であるライブアートブックスはそれにあたる。

そして忘れてはならないのはコレクターだろう。海外においては、コレクターが現代アートのシーンに占める影響力は大きい。特に高騰する現代アートの作品は、美術館で購入が難しくなっており、個人コレクターが作品の寄付をすることによって、美術館のコレクションが充実することも多い。

あるいは、個人コレクションから私設美術館に開館することもある。戦前の代表例は大原美術館であろう。戦後はポーラ美術館、西武美術館・セゾン美術館(現・セゾン現代美術館)、ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)などが知られている。特に、福武財団によるベネッセアートサイト直島のように、島全体にわたって大小の美術館をつくる例は国際的にも珍しいだろう。これらの企業経営者のコレクターの場合、財団を設立し、作品のコレクションだけではなく、アーティストの進行形のプロジェクトやアート関係者にさまざまな支援をすることで、存在感を示している。

個人コレクターは、税制の優遇がなかったり、海外と比較して突出した富裕層がいなかったり、現代アートの認知度が低いこともあって、それほど目立っていなかったが、高橋龍太郎氏や宮津大輔氏のように、自身の美学によって長年コレクションを収集し、影響を与えてきたコレクター、パトロンもいる。彼らは自身のコレクションや知見を元に展覧会や芸術祭を開催したりもしている。本メディアで紹介した島林秀行氏も積極的に発信する個人コレクターといえるだろう【※7】。

その他、個人ではなく団体で作品を購入し、作家を支えるケースもある。美術館はもちろんだが、例えば大阪の千島土地会社が設立した一般財団法人おおさか創造千島財団は、大型作品の収蔵庫や共同スタジオを運営するほか、関西の主に若手の作品のコレクションを作家支援のために購入を続けており、2010年代の動向を知る上で貴重なものとなってきている。近年では新興の富裕層が台頭し、現代アートのコレクターも増えてきている。今後も税制の優遇処置などが進めば、新しいタイプのコレクターが誕生するのではないか【※8】。

2000年以降に成長した新しいアートネイバー

さて、2000年代以降、今までの職能にはなかったアートと鑑賞者をつなぐ人も増えている。ここからは少し新しい職種、職能について挙げていきたい。

2000年代以降、特に増加したのは芸術祭だろう。国際的に増加しているが、国内でも大小さまざまな芸術祭が実施されている。芸術祭の中で生まれた新たなアートネイバーの代表格は、芸術監督といえるかもしれない。英語ではアーティステック・ディレクターであるが、芸術祭全体の演出を担当し、アーティストの選定や展示される場所を選ぶ。大きな芸術祭の場合は、芸術監督の下に、複数のキュレーターを抱える。あいちトリエンナーレ、その後継である国際芸術祭あいちは、芸術監督と複数のキュレーターの体制による大規模芸術祭といえるだろう。

2000年以降、勃興する国際展、芸術祭の起点となるものは、2001年に開催された横浜トリエンナーレ(2011年からヨコハマトリエンナーレ)となるだろう。ヨコハマトリエンナーレも、芸術監督とキュレーターとの体制からなるが、総合ディレクターといった階層がある場合もあれば、ディレクターズというように並列の場合もある。芸術監督は、学芸員やキュレーターが就任することが多いが、ヨコハマトリエンナーレは、2005年は川俣正、2014年は森村泰昌、2020年には「ラクス・メディア・コレクティヴ」がディレクターに就任しており、アーティストが芸術監督になる場合もある。あるいは、あいちトリエンナーレでも、2013年は五十嵐太郎、2016年は港千尋、2019年は津田大介といったように、批評家が就任するケースもあり、各国際展や芸術祭で特色がある。

さらに、重要なのは地方の芸術祭の可能性を示した越後妻有大地の芸術祭と瀬戸内国際芸術祭であるが、これらにはアートディレクター、ギャラリストの北川フラムが初回から総合ディレクターを務めている。大地の芸術祭、瀬戸内国際芸術祭共に実行委員会形式で、知事や市区町村の首長が実行委員長になることが多いが、それとは別に総合プロデューサーとして、福武財団理事長の福武總一郎が務めている。福武は長年、株式会社ベネッセコーポレーションの社長であり、同時に直島に美術館を建設したり、コレクションを収集したり、芸術祭を金銭的に支援していることから、プロデューサーという肩書きがついているのだろうと思われる。プロデューサーの意味合いはいろいろあるが、映画で言えば、資金調達がもっとも重要な仕事だ。映画の場合は、キャスティングも握る場合が多く、アートの場合は作家を選ぶこと自体がキュレーションのかなりの比重を占めるので同列には語れないが、アートプロデューサーと名乗る場合、何等かの資金調達やスポンサーとの交渉まで行っていることが多い。

2000年代以降、日本でも国際展や芸術祭に加えて、アートフェアが活況を呈するようになった。基本的にはギャラリーによるアート作品の見本市といってもよいだろう。世界でもグローバリズムによる急激なアート市場の拡大により、老舗であるアートバーゼルが拡大し、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ、アートバーゼル香港を開催したり、もともとロンドンの著名な美術雑誌であった『フリーズ』が、フリーズ・アートフェアとして、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスに展開し、2022年にアジア初として「フリーズ・ソウル」が開催されるなど、アジアでの展開も活発になってきている。国内最大規模のアートフェアは、2005年に開始されたアートフェア東京になる。今年から新たな国際的なアートフェア「東京現代」が開催されることになり、遅れていた日本のアート市場も徐々に盛り上りを見せている。

その中で、京都の独自性も興味深い。ひとつは、アーティストの椿昇がディレクターとなって、アドバイザリーボードのアーティストが出品アーティストを推薦し、直接コレクターに販売する「ARTISTS' FAIR KYOTO」である。市場規模は大きくないが、若いアーティストが最初に注目され、コレクションされる機会となっている。次に、コラボレーションをテーマに、国内ギャラリーと海外ギャラリーが共同出展し、会場となった国立京都国際会館や京都の環境をうまく活かしているACK(Art Collaboration Kyoto)もユニークな試みを行っている。本メディアで紹介したアートディレクターの金島隆弘氏はACKや、アートフェア東京など数々のアートフェアのディレクターを歴任している。アートディレクターは、立ち上げからディレクションする場合も多い【※9】。

しかし、大規模な国際展や芸術祭は、プロデューサー、ディレクターといった人々だけでは成立しない。無数の協力者が必要であり、それぞれボランティア団体が組織されている。大地の芸術祭では、こへび隊。瀬戸内国際芸術祭ではこえび隊と言われ、こえび隊はNPO法人化し、NPO法人瀬戸内こえびネットワークが運営している。ヨコハマトリエンナーレ、あいちトリエンナーレ/国際芸術祭あいちなどでもボランティアが組織されており、このボランティア団体の交流や層の厚さが、芸術祭の質を大きく左右するといってもよいだろう。芸術祭のボランティアの経験から、アート業界に就業するようになった人も多い。本記事で取り上げたART JOB FAIR(アート業界に特化した新しいジョブフェア)主催の高山健太郎氏も元々は福武財団のボランティアスタッフからキャリアをスタートさせており、現在はアートディレクター、会社経営者となっていることからも、プロジェクトに関わるボランティアの重要性は言うまでもないだろう【※10】。

プロデューサー、ディレクター、キュレーターといった明確な役割がある人、運営側、アーティスト側などのさまざまなサポートをするボランティア以外にも、アートコーディネイターのような名称で、組織とアーティスト、鑑賞者をつなぐ人々もいる。京都芸術センターなどでは、展覧会やイベントのプログラムを組む人々は、アートコーディネイターと称している。たしかに自分自身で企画するというより、企画の選定をし、調整をするという意味で、キュレーターというよりは、コーディネイターという方が正確なのかもしれない。ただし、コーディネイターという言葉の定義は広いので、企業に依頼されて美術作品を提案して設置したり、コミッションワークをコーディネイトする人々もアートコーディネイターと称したりしている。キュレーターは、自身のコンセプトをアーティストとともに展覧会や芸術祭というメディアで実現する人々だが、施設やクライアントが主な場合は、コーディネイターと称することになるのだろう。

芸術祭は、さらに多くのアートネイバーを生み出している。美術館ではない場所での展示も多いため、キュレーターとアーティストとの間に立ち、会場構成や設置などを行う建築家が必要になる。近年、展覧会の会場構成を行う建築家が増えているのもそのような事情によるだろう。本メディアで紹介した大阪中之島美術館を設計した遠藤克彦氏も、「KYOTOGRAPHIE 京都写真芸術祭」をはじめ多くの会場構成に携わっている。

また、美術館の展示においても、絵画や彫刻といった伝統的なメディウムだけではない、扱いにくい素材、最新の機器などの設営も担当する、インストーラーという人々がいる。本メディアでも紹介したスーパーファクトリーは現代アートを支えるインストーラー集団といえるだろう。また美術品輸送を得意とする輸送会社もあり、彼らは展示も一部担っている。【※11】

あるいは、芸術祭や展覧会の、広報を専門として担当する人々もいる。もちろん、助成をしてくれた企業をはじめ、マスメディアへのプレスリリースやプレス対応など、さまざまな広報業務を担う。あるいは、近年ではツイッターやInstagram、FacebookなどのSNSでの発信も積極的に行わなければならない。国際展の場合は、特に海外へのプレスも必要なってくるので、多言語に習熟している必要もある。最近では、現代アートの展覧会や芸術祭専門の広報業務を行う人も登場しているが、美術館や新聞社などが主催した展覧会の広報業務だけ請け負う企業もある。プレス向けの記者会見や資料などを取り仕切り、使用可能な画像などを提供し、その成果としての掲載媒体などをチェックする。美術業界の広報は、前職がメーカーや商社など他領域出身者も多く、領域横断的な職種であることも明記しておきたい。日々大量の美術関連情報がリリースされる中、ますます重要性が高まっている職種といえる。

国際化に伴い必要になってくるのは、翻訳者の存在だ。現代アートの内容は、専門性が高いので、それを得意とする翻訳者もいる。あるいは、海外のアーティストが来日した際、通訳として立ち会い、シンポジウムなどで同時通訳の業務を行ったりする人々もいる。特にその比重が大きい人はアートトランスレーターと名乗る場合もある。

展覧会は一過性のものなので記録が重要であるが、それを担う写真家や映像制作者がいる。展覧会やアート作品の記録は、単なる「物撮り」や建築写真のようなものではない。インスレーションのような空間全体で表現する作品も増えており、アーティストや作品に対する理解が欠かせない。その意味で、アート表現をある程度知っていることが必要になる。本メディアで紹介した表恒匡氏も、美術大学出身であり、撮影や加工の技術に加えて、作家の意図を読み取れるということが大きいだろう【※12】。

コロナ禍になって展覧会が会期途中で閉幕したり、入場制限されるようになって特に注目されるようになったのは、Matterportなどように3次元空間を記録したり、オンライン配信をする映像制作者だろう。本メディアは、3次元データで展覧会を記録するART360°のサテライトメディアとしてスタートしており、展覧会記録の中にいかに身体性を与えることができるかについて、京都市立芸術大学芸術資源研究センターの佐藤知久氏と、ART360°ディレクターの辻勇樹氏が語っている【※13】。

「アーカイブ」の重要性が高まるに連れ、それに関わる人々も増えている。本メディアでは京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAのチーフキュレーター/プログラムディレクターの藤田瑞穂氏にアーカイブの実践に話をうかがったり【※14】、かめおか霧の芸術祭 霧の芸術舘2021プログラム「線を引き続けるためのアーカイブ」の実践についてアート・メディエーターはがみちこ氏が芸術資源や再賦活化という観点からアーカイブを見直している【※15】。アート・メディエーターと名乗る人はまだ多くはないが、上位からディレクションするように見られるキュレーターではなく、アーティストとフラットな関係でアートと人々を媒介する人、という意味が込められているといえる。はが氏の場合は、キュレーションや評論、研究など幅広く手掛けているが、それらすべてメディエイター(媒介者)としての活動といえるだろう。また、美術館におけるアーカイブの体系化と利活用についてはアーキビストである松山ひとみ氏に話をうかがっている【※16】。最新の表現や最新のメディアによる記録についても、これからどのように保存していくか課題になるだろう。その点、山口情報芸術センター[YCAM]は、メディアアートの表現を軸にしていることから、アーキビストのポストが設定され、過去の展覧会やワークショップが公開されている。そのような先端メディアを扱う施設ではなくても、コロナ禍で世界中の美術館でも、独自のチャンネルを持ち、キュレーターが作品解説をする番組も激増した。今後もオンライン配信は必須となるだろう。

さらに、YCAMは、アーティストのテクニカルなサポートや開発をするだけではなく、エデュケーションに力を入ており、その道具も自分たちでつくるとR&Dディレクターの伊藤隆之氏はインタビュー時に語っている【※17】。鑑賞者との対話や教育は美術館や芸術祭でも近年、重要な柱になっている。なかでも一目ではわからない現代アートを対話しながら理解を深める対話型鑑賞教育「VTS : Visual Thinking Strategy」も注目を集めている。本メディアでは、教育普及に長年力を入れている兵庫立美術館の主査学芸員、アートエデュケーター遊免寛子氏【※18】に話をうかがっているが、そこでは、美術館内で学校の生徒たちに教えるミュージアムティーチャーという仕事も登場する。同じく本メディアで紹介したICOMの「美術の博物館・コレクション国際委員会(ICFA)」の委員長を務める和歌山県立近代美術館学芸員の青木加苗氏【※19】も、教育普及課の学芸員であり、ミュージアム・エデュケーションを行っている。

あるいは、アーテイストそのものがNPOなどの団体やグループ、コレクティブをつくり施設を運営している場合もある。その際は、共同スタジオに加えて、ギャラリーなどをつくって、外部の人に見にきてもらったり、共同スタジオ自体を公開する場合もある。本メディアで紹介したC.A.P.山中suplexは、形態は違うがアーティストの団体から始まり、さまざまな活動に展開していった【※20】。C.A.P.や山中suplexは、海外のアーティストを受け入れるレジデンスも行っており、国際交流の役割も担っている。C.A.P.の場合、ワークショップや講座を開くなど、地域の人々と積極的に交流もするので、美術館や大学とは違う地域のアートエデュケーションを担っているといえるだろう。

近年、アート関連の助成をする財団には、本メディアを運営している公益財団法人西枝財団のように、メディアを持って積極的にアート情報を発信している場合もある。関西では、本メディアでも紹介した一般財団法人NISSHA財団が発行・運営するウェブマガジンAMeeTや、一般財団法人おおさか創造千島創造財団の発行・運営するウェブメディアPaperCなどが知られている【※19】。地域情報誌が相次いでなくなる中、地域のアート情報はこのような公益性を重視する財団が担っているのも興味深い【※21】。

例に挙げてきたような、さまざまなアートに関わる活動を統括し管理する仕事の一つとして、アートマネージャー(アートアドミニストレーター)がいる。欧米では1960年代以降、文化政策の明確化や公的助成の基金などの設立に伴い、展覧会や舞台を行うための資金の調達や管理、運営をするアートマネージメントが必要になり、そのための技能や実務が体系化されてきた。日本でも1990年代には輸入され、大学で講座などが開講されたり、学会が設立されたりしているが手探りでその手法が取り入れられてきたといってもよいだろう。組織や場所、プロジェクト、イベントなどを運営するためにはマネージメントが必要であり、本メディアで紹介した人々も明示化されてはいないが、多かれ少なかれアートマネージャーを担っていることを付け加えておきたい。
こここまでアートと鑑賞者を繋ぐさまざまなアートネイバーを紹介してきたが、つきつめるとアート業界の生態系にくらすべての人々を指すといってもよい。今後も新たにさまざまなアートネイバーが誕生すると思うが、それもやはりグローバリズムをはじめとした社会の変化の中で生まれたものであるといってよいだろう。アートが明確に定義されていない、あるいはできない性質のものである以上、アートネイバーの役割も複雑になると思うが、アートネイバーがどのように生まれ、動いているかが逆に社会におけるアートの存在を浮き彫りにしていくのではないだろうか。重要なのは、アートの形もアートの価値も時代に応じて常に変動しており、美術館のような建物だけではなく、多くの人々に支えられているということだろう。その意味では、アートネイバーとはアートを鑑賞者とつなぐというより、むしろアート自体を支える担い手といってもいいのかもしれない。

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アートネイバーについては、2023年7月7日開催の、+5(plus five)3周年記念イベントvol.1「アートの隣人としてあるく」でさらに深ぼっていく予定です。ぜひご参加ください。

本記事で出てきたアートの仕事

  • アーティスト
  • 学芸員、インディペンデントキュレーター
  • 画商、ギャラリスト
  • 美術評論家、アートライター、アートブロガー
  • 美術出版
  • コレクター
  • 芸術監督、アートディレクター、アートプロデューサー
  • アートコーディネーター
  • インストーラー
  • アートトランスレーター
  • 広報
  • アートメディエーター
  • アーキビスト
  • アートエデュケーター、ミュージアムティーチャー
  • アートマネージャー

注釈

【※1】矢津吉隆さん、神谷泰史さんの記事はこち
体験する場を作るということ
ビジネスとアートをつなぎ 新しい価値を創造する
(URL最終確認2023年7月5日6時05分)

【※2】豊田市美術館の千葉真智子さんに関しては、+5初の特集記事で、図録の分析をキュレーター視点で実施してくださった。記事の中盤に出てくる、デザイナーの大西正一さん、アート印刷を事業とするライブアートブックス社の川村も加えた3者の視点で図録を分析する取り組みである。
図録という記録のありかた〜メディアプロデューサーとしてのキュレーター〜
図録という記録のありかた 〜翻訳者としてのデザイナー〜
図録という記録のありかた 〜媒介者としてのプリンティングディレクター〜
(URL最終確認2023年7月5日6時05分)

【※3】大阪中之島美術館に関する記事はこちら。記事に出てくる遠藤克彦さんが設計している。「美術館をつくる」ということを詳細につかむインタビューとなった。
【+5サイトリニューアル記念記事】美術館をつくる|調停者としての建築家
(URL最終確認2023年7月5日6時07分)

【※4】インディペンデントキュレーターの主な活動は展覧会の企画であるが、それに組み合わせて独自の活動をしている者が多い。例えば金澤韻氏(コダマシーン)は、都市開発とアートを組み合わせたプロジェクト(TOKYO TORCHプロジェクトなど)の企画や、審査などに関わっている。
堤拓也は、アーティストの共同スタジオ(山中suplex)にプログラムディレクターとして関わりながら、アーティスト共に地域性や時代に合わせたキュレーションを行っている。
HOTEL ANTEROOM KYOTOの元支配人である上田聖子(MISENOMA)は、ホテルという特殊な環境下でのキュレーションを強みとし、現在はキュレーターとホテルアドバイザリーというふたつの役割を混ぜ合わせて活動している。

・金澤さんの記事はこちら:「違和感から生まれるイノベーション– 越境、コダマシーンの挑戦 –」(記事は前後編となっている)
・堤さんのキュレーターとしての活動に関しては、山中suplexの取材記事の後編で、詳細に語られている。
 「共同スタジオ「山中suplex」がつくりだす アートのエコシステム」(記事は前後編となっている)
・上田さんの記事はこちら:「アートホテルが広げる新しい時間と鑑賞のかたち

(URL最終確認2023年7月5日6時10分)

【※5】ギャラリスト 松尾惠さんに関する記事はこちら
アートの声を拾う ヴォイスギャラリーに聞こえる可能性
(URL最終確認2023年7月5日6時10分)

【※6】ジャーナリスト 小崎哲哉さんに関する記事はこちら
トランスカルチャーの中へ ジャーナリズムから考える文化の広げ方 」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時10分)

【※7】アートコレクター島林秀行さんに関する記事はこちら
アートコレクターの流儀 作品収集の先にあるもの」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時10分)

【※8】おおさか創造千島土地財団に関しての記事はこちら
まちにアートをインストールする
(URL最終確認2023年7月5日6時11分)

【※9】アートディレクター 金島隆弘さんに関する記事はこちら
選択するコラボレーション 出会いの循環作用から考えるアートフェア」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時11分)

【※10】ART JOB FAIR高山健太郎さんの記事はこちら
アートの仕事、だけではない出会い「ART JOB FAIR」が光を当てたもの
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※11】スーパーファクトリーに関する記事はこちら
現代美術の裏に彼らあり。スーパーファクトリーの仕事」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※12】写真家 表恒匡さんに関する記事はこちら
資料制作としての写真 表恒匡が作る未来の記録
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※13】京都市立芸術大学芸術資源研究センター佐藤知久さんとART360°辻勇樹さんの対談記事は以下
XR時代のアーカイブが 拓く身体性とは?」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※14】ギャラリー@KCUA 藤田瑞穂さんに関する記事はこちら
アーカイブから生まれる 新しい展覧会のかたち
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※15】アートメディエーター はがみちこさんが執筆したアーカイブに関する記事はこちら
過去から未来へ「線を引き続けるためのアーカイブ」と、ミュージアムの現在
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※16】アーキビスト 松山ひとみさんに関する記事はこちら
見つけてもらう喜び ありのままを保存し、公開するアーキビストの仕事
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※17】Y-CAMインターラボ伊藤隆之さんに関する記事はこちら
メディアアートを通して地域とつながる。人とテクノロジーのこれから
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※18】アートエデュケーター遊免寛子さんに関する記事はこちら
学校と美術館をつなぐ アートエデュケーターの仕事
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※19】ICOM-ICFA Chair 青木加苗さん(和歌山県立近代美術館)に関する記事はこちら
対話で生まれるみんなのミュージアム ICOMと美術館でひろげる可能性
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※20】C.A.P.、山中suplexに関しての記事はこちら
アーティストの連帯が街に浸透するC.A.P.(芸術と計画会議)の試み」(記事は前後編となっている)
共同スタジオ「山中suplex」がつくりだす アートのエコシステム」(記事は前後編となっている)
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

【※21】AMeeTについては、編集部の中本さんに過去、インタビューを実施している
メディアを編集してオルタナティブな文化を醸成していく
(URL最終確認2023年7月5日6時12分)

WRITER|三木 学(みきまなぶ)‍

文筆家、編集者、色彩研究者、美術評論家、ソフトウェアプランナーほか。
アート&ブックレビューサイトeTOKI共同発行人 
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。