00　導入 - Introduction

金氏徹平の創作活動は〈コラージュ〉という手法の解釈の拡張によって、玩具や日用品、サウンドや動き、さらには人物までをも作品に取り込むことで、ときには自身の意図さえも超えてイメージを空間に展開していきます。このようなアプローチは、展覧会が個々の作品の集合ではなく、その時、その場所を訪れた鑑賞者の体験も含めて、ひとつの作品性を持ちうることを教えてくれます。　

ART360°（アート・スリー・シックスティー）は、展覧会を360°映像で記録、保存するアートアーカイヴ事業として、 2017年に活動を始めました。その準備段階で、初めて記録された展覧会が金氏徹平の個展であり、この出会いによって、いまだ確信的ではなかった展覧会という体験を記録することへの希求が、アーティストをはじめとする芸術を作り上げるすべての人々に内在することが明らかになりました。　

本展では、ART360°が取り組んできた金氏徹平の展覧会記録を通じて、展覧会という表現形式の存在意義が高まる現代における新たな記録、体験のあり方を提示するとともに、誰かの言葉や目線ではなく、一人ひとりの身体性をともなって過去と出会う未来がどのように《文化という記憶》の解釈を変えるのかについて、みなさんと共に考える機会となることを期待しています。

01　作品 - Artwork

アートの記憶はいつも作品との出会いから始まります。そこは親に連れられて行った美術館だったり、友人と訪れたギャラリーやアートフェア、海外旅行中に見かけた地下鉄のポスターかもしれません。作品は、適切な環境で保存管理される限り長期間の保存が可能ですが、その作品と対峙した一人ひとりの体験は、公式の記録としてはほとんど残りません。あなたは今日この作品と向き合ったことを、未来にどのように憶えていますか？

02　口述 - Oral History

金氏徹平とともに作品を発表してきた共同制作者へのインタビューを通して、記録としては残らない金氏徹平をそれぞれの言葉で紡ぎます。作家本人のインタビューと並置することで、自己と他者のあいだに生じる差異や一貫性、立場の違いによって変化する語りが作家のさまざまな側面を照らし出します。

03　観客 - Audience

展覧会場では来場者から金氏徹平の展覧会や作品にまつわる記憶を募集しています。これを通して観客の記憶を拾い上げ、公式に語り継がれる記録に解釈の多様性を与えることができると考えています。短くても長くても構いません、ぜひあなたの記憶を聞かせてください。すべてではありませんが、いただいた記憶は展示会場にある掲示板に掲載をさせていただきます。展示会場では、手書きで記憶を投稿いただくこともできるので、ぜひご来場の際はあなたの記憶を聞かせてください。

04　追憶 - Reminisce

金氏徹平の過去の展覧会アーカイヴ映像をもちいたインスタレーションです。360°映像が4つの壁面に投影されます。過去の展覧会記録に身を投じることで、時間軸を超えて展覧会に訪れます。また、VRヘッドセットを使用し、より没入感のある展覧会記録へとアクセスすることも可能です（壁面外側にあるヘッドセットをご使用ください）。

05　資料 - Documentation

過去の展覧会で発行された資料やカタログ、記録映像を展示します。

06　過程 - In Progress

関連プログラム アートバス tower (BUS) の3Dスキャンと、9日に行われるパフォーマンスを360度映像とによってアーカイヴ。当日はタイミングがよければ実際のアーカイヴ撮影風景を見ることができます。また11日以降、会場では映像編集者の作業画面を公開し、普段はみることができないアーカイヴの過程を覗き見ることができます。