違和感から生まれるイノベーション – 越境、コダマシーンの挑戦 – <後編>

違和感から生まれるイノベーション – 越境、コダマシーンの挑戦 – <後編>

コダマシーン|金澤韻、増井 辰一郎
2021.07.19
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前編では、コダマシーンが始動するまでの経緯や拠点とする上海の現在アートの状況をお聞きしました。
後編では、新しいイノベーションを見据えたコダマシーンというユニットとしての強みや理念、それらがまさしく具現化された、東京で進行中の新プロジェクトについて詳しくお話をうかがいました。


ユニットとしての活動、これからの日本に必要な文化イノベーション

ーー建築家とキュレーターという専門性を持つパートナーと組むメリットはどんなところにありますか?

金澤:私には建築や設計の知識は全くなくて、図面のことは全部増井に任せています。やはり空間や素材のこと、作品を置く背面の壁がどんな素材で、どのように設置するのか、耐荷重、搬入経路など…テクニカルのことはやはり建築をよく知る人と組むと強い安心感があります。

増井:世界の現代美術の流れを踏まえて言語化してもらえることは大きな強みです。あとは、知っているアーティストのボリュームが全く違うので、色々なアドバイスをもらえることも大きいです。

金澤:アートはコンテキストがあって、そして現在の社会があって、そのクロスしたところに立ち上がってこないと、沈んで消えてしまう。歴史や伝統含めた長い経緯があって「今、ここ」にがっしりとハマることができたときに人を感動させたり、何らかの意味や価値を社会において生む。だからこそそこにお金を投じる意義もある。そういうことをきちんと言えるのがキュレーターだと思って仕事をしています。

作家と打ち合わせをする金澤さん。アーティスト、ワン・イーのスタジオにて

ーーそういった意味では日本もなかなか厳しい状況と傾向になっているとも言えます。

増井:そうですね。文化イノベーションという話にもつながりますが、広告代理店がアート関連で色々入ってきているなあという印象も持っていて、メンバーを見ると、キュレーター不在のことが多い。代理店出身のアートディレクターや大学教授、アーティスト、ギャラリストがアドバイザーみたいなこともありますが、やはりコマーシャル一色で「文化」が見えない。この組織体制だとお金の匂いしかしないな……みたいなのはあります。組織を作るときに、キュレーター必須ということではないですが、そういうことを理解しているアーティストを選ぶとか、「文化」への指針を持てる人がいないと「お金」だけに引っ張られてしまいます。


ーー今後国外で働きたいと思っている次期アートネイバーのために、いかにアイデンティティを確立していくかなど、国を超えて活動するためのアドバイスはありますか?

増井:僕たちはそういうブランディング的なことを固めて始めたわけではないのですが、若い人たちに対して何かアドバイスするとすれば、「まずは行きなはれ」と言うと思います(笑)。本当に。今は少し移動が難しいですが、まず行ってみて肌で感じて何が自分にできるかを考える。現地で成功している人やそこに住む外国人を見ればなんとなく生き様のようなものはわかりますし。そして、自分の好きなことを突き詰めることですね。

あと、僕はとにかく人に興味を持つんです。家においでと誘われたら社交辞令かなと思いつつもとにかく行っちゃうとか。ある程度の大胆さと良い意味での空気の読めなさも含め、とにかく動いていく。

金澤:海外に行くというのは、全然違う人たちとやりとりをすることで、そこで違和感を感じることはすごく大事なことですよね。私自身は上海にいることで、自分自身を常に新鮮に保つことができる。モヤっとしたり理解できなかったり、そういうことが大事だと感じます。この土地ではこれが当然、日本で当たり前だと思っていたことが別の場所ではそうではない、そういう体験がクリエイティビティを刺激します。


ーー「多拠点的な視点」について。上海と日本で(中国語・英語・日本語で)仕事をすることをどのようにとらえていますか。 

増井:僕は、多拠点というよりもむしろ、自分の身近な人を少なくとも喜ばせる、ということを考えながら仕事を組み立てて行っています。日本語・英語・中国語の「トリリンガル」を選ぶことも、上海で自分の親しい人々に自分のやっていることを説明するための必要から中国語があったほうがいいという理由からで、多拠点という視点ではないかな。

金澤:私は少し違って、多拠点的な考えを持って生きていると思います。それが自分に与える影響を意識しています。中国に住んでいると、インターネット上にVPNがないと繋がらないサイトがかなりある、Googleとか。で、そういう世界が存在しないものとして生きている人々も大勢いる。月の裏側のような世界、という印象です。こちらはこちらで一つの世界が形成されていて、中国語以外の世界はないものとして十分生きていける。私たちの活動に中国語を入れることで相当数の中国語ネイティヴの人に伝えることが可能になり、活動範囲や可能性が大きく変化します。中国に住んでいなかったら、この視点はなかったかなと思います。

そもそも、まず日本だけに住んでいて、その後ニューヨークやロンドンで「あ、英語大事なんだな」と思ったことが最初です。それまでは自分が生きてきた社会しか知らないから日本語があればいいと思っていたわけですが、海外に出ると、あ、日本語だけではダメだと痛感する。今は中国で、日本語と英語だけではダメなんだ、と思っているわけです。

あとは住んだ国、自分が拠点としている場所が自分に与える視点。そして今、デジタルの世界に住む、という概念も浮上しています。身体は上海にありますが、書いたり発表したりという活動の拠点はインターネットが主流になっている。少し「拠点」という概念が変わりつつあるという感覚を持っています。


ーーいずれにしても、異文化体験や新しいものに触れることは、アートに触れることの体験と似ていますね。

金澤:そうですね。普段は使わない脳や感覚を刺激する体験であると思うので、たとえ海外で挑戦してみて上手くいかなくても、自分の国に帰った時にその経験は絶対に何らかの糧にはなる、その人の人生において。それを持ち帰ってきたことが周りに影響を与えることもあるはずで。ぜひ「違和感」を積極的に体験していってほしいです。

講演会後に来場者と歓談するコダマシーン(コダマシーン提供)

コダマシーンの理念、これから

ーーコダマシーンとして仕事上大切にしていること、理念はなんですか?

金澤:中国を拠点とし、パブリックアートなどを適当に設置している現場などを目の当たりにして思うことは、やはりきちんとコンテキストやコンセプトを踏まえて実践することの重要性です。そしてきちんとした素材できちんとした工法で「理にかなった」方法を貫くということを決めています。

増井:乱立する「それっぽいもの」を設置する業者と同じことをやっても意味がないわけですし、僕らがやる必要はないと思っています。やはり、本物のアートをきちんとと設置する、ということを心がけています。


ーーそんなコダマシーンのビジョンと信念を実践された、東京でのプロジェクトがまさに進行中とか。

金澤:東京駅の隣、三菱地所が開発している「TOKYO TORCHプロジェクト[1]」の一環で2021年7月21日(水)にオープンする「常盤橋タワー」というビル内に18点のアートを設置するというものです[2]。昨年6月に指名コンペがあり、私たちが選ばれました。そこからアーティストと作品の選定から設置まで準備してきました。

増井:基本的に低層が商業エリア、あとはオフィスビルです。オフィス階にもいくつか作品があり、エリアには18作品のうち6作品が設置されます。


ーーアート選定にも関わってくるビル全体のコンセプトはどのようなものですか?

金澤:「常盤橋タワー」が位置するのは、江戸城の表玄関つまり江戸文化の面影を残すエリアです。また、東京駅のすぐ隣といういわば日本の玄関口でもあります。歴史や伝統を継承しながら世界への出入口でもある、さらに未来志向やSDGs といったTOKYO TORCHのコンセプトを踏まえて18作家のラインナップを構成しました。5名が海外作家で8割以上の作家は40代以下です。「未来志向」のコンセプトから、大御所アーティストだけで構成することは避けました。これからの可能性のある人を紹介していこうという狙いがあります。

実は、私たちが指名コンペに呼ばれた理由にも新しい世代、これまでその分野を手がけていなかった人たちに挑戦してもらおうという意図もあり、指名コンペに入れてもらった経緯があります。採択はもちろんプランが評価されたからなのですが。


ーー新しい商業施設でよく見るラインナップとは一線を画す顔ぶれですね。

金澤:そこは狙いました。ジャンルも様々で、デザイナーや陶芸、漫画家……ほぼコンペ時の提案です。


ーーこのラインナップには、上海から見る日本や東京といった視点が具体的に反映されているのでしょうか?

金澤:おそらく入っていると思います。あとは、常盤橋タワーが「江戸切子」などの意匠を一部に取り込んだデザインというところから、幾何学的模様を想起させる作品や竹や漆などの伝統的素材を使用した工芸分野、陶芸、日本画…そういう作品を意識して入れています。そういったラインナップが、より「日本」を感じさせるものになっているかもしれない。ただそれは日本人がイメージする純粋な「日本」とは少し異なっているかも。

例えば、ジェイコブハシモトというアーティストは、父親が日本人とのハーフで、彼自身はクオーターですが生まれも育ちもアメリカです。でも、彼の作品には日本の気配を感じます。凧のユニットを組み合わせた作品があるのですが、日本での展示は初めてです。そういう感覚ってとても面白いと思います。グローバルにおける日本的文化イメージ、とでも言うのでしょうか。また、横山裕一さんの作品は8メートルの壁画として展示されます。彼は日本人ですが、描いているものがコスモポリタン的で世界的に人気のあるアーティストです。

そういうキュレーティングやディレクションは複雑な料理を作るのに似ていると思います。メインはこれで、そこにカルダモンをちょっと入れて・・・というふうに。少しは必要な要素だけど入れすぎてはならないというものがあったり、いろんな条件やヒントを注意深く合わせてバランスをみながら作っていく作業。そういうステップを経て完成したこのラインナップが、私たちが上海から見た「今の東京」と言えるのかもしれません。


ーープロセスの中で、難しさや醍醐味など印象に残ったことはありますか?

金澤:楽しさ、しかなかったですね(笑)。

増井:楽しいですよね、いろんなアーティストとやりとりするのは。気になっていた作家だったり、そういう人たちとコミュニケーションして何かを作りあげていくのは本当に面白いです。

金澤:難しさということで言えば、全て遠隔でやらなければならなかったことですね。私たちは上海にいたので、東京側で動いてくれる中原崇志さん※(https://takashi-nakahara.com/ABOUT)、角尾舞さん※(https://www.ocojo.jp/)には様々な形で協力してもらいました。間もなくオープンですが、このプロジェクトを今回任せてもらえて本当に良かった、という気持ちです。


ーーお二人のそういった活動が、アートをきちんと設置するということや組織作りにおける日本での意識改革につながる一歩になりますね。最後にこれだけは伝えたい!というメッセージがあればぜひ。

増井:現在日本で大規模なパブリックアートの設置を手掛けている人って60代以上が多いと思います。しかも名前の出てくる方はみんな男性で、ほぼ女性は不在。そういう点からもこの仕事は僕らにとってもすごく意味があるものと考えています。

金澤:日本に必要な文化イノベーションということが話の中でもありましたが、この「常盤橋プロジェクト」では、若手にも門戸を開こうという主催者の強い意志があったからコンペに参加することができた。こんなふうに、一人一人が考えて行動していくことで未来は変わっていくと思います。昨日もこうだったから明日もこう、ではなくて。いつもあの人だから今回もあの人、ではなく。変えてみようという小さい意志をみんなが持てば社会は良くなっていくはずなので、一緒に頑張っていきましょう。

増井:組織体制なども、上にいる人たちがどうしても変化を好まない傾向は確かにある。でもそれを変えていかなければイノベーションは起きない。安心感からのいつも同じメンバーや作家ではなく、世界にはものすごくたくさんのアーティストがいるのだから、新しい顔ぶれで新しいことをやっていきたいなと思います。だから、ぜひ一緒に仕事をしましょう!(笑)

作家と打ち合わせをする金澤さん。アーティスト、タン・ジェのスタジオにて。 (コダマシーン提供)

[1]TOKYO TORCHプロジェクト
https://tokyotorch.mec.co.jp/

[2]TOKYO TORCHプロジェクト アート情報
https://tokyotorch.mec.co.jp/about/tokyo_torch_art/

<コダマシーン> https://c-d-m.co/



INTERVIEWEE|

金澤 韻 (かなざわ こだま)

現代美術キュレーター。Code-a-Machineファウンダー。これまで国内外で50以上の展覧会を企画。トピックとして、グローバリゼーション、ニューメディアアート、そして日本の近現代史を扱い、時代・社会の変化とともに変容する人々の認識と、私たちに精神的な困難をもたらすものを捉え、問題解決の糸口を探る。東京芸術大学大学院美術研究科、および英国王立芸術大学院大学(RCA)現代美術キュレーティングコース修了。熊本市現代美術館など公立美術館での12年の勤務を経て、2013年に独立。2017年4月から2020年3月まで十和田市現代美術館の学芸統括としても活動。

増井 辰一郎 (ますい しんいちろう)

Code-a-Machineファウンダー、GM。1976年生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。インテリアデザイン事務所でのデザイナー、グラフィックデザイン事務所でのプロジェクトマネージャーなどを経験し、上海にてアートとデザインの企画会社Code-a-Machineを金澤韻と共に設立。空間デザイン、展覧会企画、アート及びデザインプロジェクトのマネジメントを専門に行う。アートやデザインを通じて各国の人々をつなぐことを使命とし、企画・プロジェクトマネジメントを行っている。



INTERVIEWER|小島ひろみ(こじま ひろみ)

広島県出身。舞台芸術の制作や広告代理店勤務を経て、2013年から広島市現代美術館学芸員。企画担当した展覧会に「東松照明―長崎―」展(2016)、「村野藤吾の建築―世界平和記念聖堂を起点に」(2017)など。2018年から外資系ブランドのアート部門マネジャーを務める。2020年度東京藝術大学大学院映像研究科主催RAM Associationに参加。2021年度企業メセナ協議会メセナアソシエイト(外部研究員)。