アートからDIYまで、色彩をみんなのものに ターナー色彩が目指す彩りある社会

アートからDIYまで、色彩をみんなのものに ターナー色彩が目指す彩りある社会

ターナー色彩株式会社|平尾彰一、西原克俊、花本京子
2021.12.15
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アクリル絵具の代名詞とも言える「アクリルガッシュ」をはじめ、短期屋外用絵具「ネオカラー」、DIY塗料「ミルクペイント」など、さまざまな製品を世に送り出しているターナー色彩株式会社。学生を対象とした公募展「ターナーアワード」の開催や、アーティストをサポートする参加型のコミュニティサイト「ターナーU-35コミュニティ」の運営など、画材の生産・販売のみにとどまらず、アートシーンに向けたさまざまな取り組みも行っている。

今回は、アート事業部次長 平尾彰一(ひらおしょういち)さん、研究開発室部長 西原克俊(にしはらかつとし)さん、デザイン・プロモーションチーム主任 花本京子(はなもときょうこ)さんという、それぞれ仕事内容の異なる3人にお話を伺った。学生や若いアーティストへの思い、絵具を作ることと売ることの難しさ、アートシーンと社会において目指すことなど、さまざまな角度からターナー色彩を掘り下げたい。

がむしゃらに頑張る「35歳以下」の若者を応援したい

アート事業部 平尾彰一さん

ーーアート事業部はどのような業務を担当する部署ですか?

平尾:ターナーは絵具だけでなく、塗料や、絵具と塗料の両方の技術を活かした商品など幅広く作っていますが、アート事業部が担当しているのは絵具の部分です。主に画材・教材の営業を行っていて、画材店や文具店、そして学校に出向くことが多いです。画材店と文具店はイメージしやすいと思うのですが、学校への営業はどういうことかというと、まず中学校や高校の教材として絵具セットがありますよね。ターナーはその全国シェアが約7割あって、売り上げの中でも大きな部分を占めています。毎年、新学期時期に絵具の採用があるのですが、その際に当社の絵具を採用して頂けるようにPRしています。


また、美大など絵を専門的に学ぶ学校に行って、絵具の使い方の講習会を開いたりもします。大学では高校までと違って、入学時に指定のものを全員が購入するわけではなく、個人で画材を揃えていくことも多いんですね。でも、絵具って自分で触ってみないとわからない。硬さだったりどれくらい水で溶けばいいかだったり、自分でチューブから出して使ってみないとわからない。学生さんの皆さんが今後、手に取りやすいように、先生方と一緒になって講習会を開き、実際にターナーの絵具を触ってもらうんです。この講習会の講師役もアート事業部の社員の仕事です。

ーー海外担当もされているとのことですが、ターナーさんの海外での仕事は、どのようなものなのでしょうか。

平尾:例えば「デザインガッシュ」という絵具は30年ほど前からニューヨークのデザイナーさんに多く使っていただいています。それよりもっと前から、アジアでは「ネオカラー」という短期屋外用絵具がすごく有名で、タイのワット・プラ・ケオ(エメラルド寺院)もこのネオカラーで塗られています。しかし、ターナーの看板商品「アクリルガッシュ」は、ほとんど日本以外では知られていません。この2、3年で徐々に広がってきてはいますが、まだまだですね。

ヨーロッパでは、15年ほど前から毎年ドイツの見本市に出展しています。しかし、ヨーロッパには歴史を持った絵具メーカーがたくさんあって、その中にいきなり日本のメーカーが飛び込んでもなかなか受け入れられません。そこで、2018年に現地でターナーヨーロッパという子会社を作り、販路の拡大を進めています。

絵具って「バズったら売れる」みたいなことがほとんどないんです。やっぱり触ってみなければわかりませんから。それに、最初にこのメーカーの絵具を使うって決めたらなかなか他に変わらない。そして、一本買ったらなかなか減らないのでリピートも来づらい。地道にコツコツとやっていけるかどうかに命運がかかっていると思います。


ーーターナーの社風にはどんな特徴がありますか?

平尾:今言ったような特性があるので、絵具の業界ってなかなか新しいことに取り組みづらいんです。しかしそんな中でも、ターナーには新しいことや他社がやっていないようなことにチャレンジしていく気風があると思います。DIYのムーブメントにいち早く注目して商品開発を行ったり、SNSの導入も早かったり。そもそも絵具と塗料の両方を扱うこと自体、他社では例がありません。ターナーでは「Think Big」という言葉がスローガンになっているのですが、「小さいことを考えるな、大きなことから考えよう」というこの風土が、未来に向かって新しいことに取り組んでいく姿勢につながっているのだと思います。

工場内にあるTHINK BIGのポスター
社員全員に浸透している考え方

もうひとつ、ターナーが大切にしているのが、若いアーティストを育てることです。昨年「U-35」[1]という新しいアクリル絵具を発売しました。かなり大胆なネーミングなのですが、次世代を担う「35歳以下」の若者に、最高の品質かつリーズナブルな価格のこの絵具でたくさん絵を描いてほしいという思いが込められています。

アーティストにとって、35歳は大きなターニングポイントなんです。24、5歳で美大を卒業して、がむしゃらに描き続けて、10年経った頃ですね。いろいろな方にお話を聞きましたが、だいたいみなさん35歳前後の時にその後のアートとの関わり方を決めたとおっしゃいます。だから、その35歳までの必死に頑張っている若者をターナーは応援したいと思っているんです。

ーー平尾さんがこれからターナーで挑戦したいと思っていることはありますか?

平尾:近年、表現のツールのデジタル化が進んでいて、その波は今後5年でさらに加速していくと思います。なので、アナログで絵を描くこととデジタルの融合をもっと広げていきたいですね。例えば、絵具のこの色とこの色を何対何で混ぜたらこんな色になるというのがわかるアプリであったり、デジタルで描いてプリントしたものに着色する絵具、逆にアナログで描いたものをデジタル化するツールなど、さまざまな可能性があると思います。アナログがなくなるとは決して思いませんが、そういった新しい方向も追求していきたいなと思っています。

U-35 ポスター


絵具と塗料、2つの技術で「普通はやらないこと」にチャレンジ

研究開発室 西原克俊さん

ーー研究開発室の担当業務について教えてください。

西原:名前の通り、製品の研究開発をメインに行っています。その他、製品の品質管理、ユーザーの方からの問い合わせへの回答も行っています。

一から商品開発を行う場合は、営業や企画の部門と一緒にコンセプトから検討していき、それに合致する性能を持った製品設計をしていきます。まず最初は顔料、樹脂、添加剤などいろいろな原材料を組み合わせながら、ひとつずつ確認していく作業。おおまかな組み合わせが決まったら、次はその添加量を細かく調整しながら、どの量がベストなのかを評価していきます。そして最後に安定性の評価があります。いいものができても、ユーザーの元に届いた時に固まってしまっていたりするとだめなので、安定性も非常に重要な要素です。

その他に、研究開発室側から商品の企画を提案することもあります。ニーズから入る場合とシーズから入る場合、両方あるということですね。また、増色(色の種類を増やすこと)など既存の商品から派生する商品開発もあります。アクリルガッシュも約40年前の発売当初は60色ちょっとで、そこから通常色の増色や蛍光色の追加、パールシリーズ、ラメ、ジャパネスクとどんどん色を増やしていき、現在は全221色になっています。

問い合わせについては、基本的に最初の対応は営業の者がするのですが、内容によってより専門的な知識が必要な場合は私たちが担当します。「こんなものにも塗れますか?」といった質問が多いですね。



ーー西原さんはずっとこの研究開発室にいらっしゃるんですか?

西原:そうです。大学を卒業して新卒で入社してから、ずっと研究開発室一筋です。大学では化学を専攻していまして、実は絵具は中学校で触ったきりでした。絵具や塗料に関していろいろと勉強したのは入社してからですね。その中で、やっぱり自分でも描けるようになった方がいいんじゃないかと思い絵の勉強をしたこともあったのですが、ちょっと向いてないかなと思って途中で断念しました(笑)。


ーーこれまでどんな製品の開発に関わってこられましたか?

西原:どちらかというと塗料の製品が多いです。塗るだけで黒板になる「チョークボードペイント」や、磁石がくっつく下地用塗料「マグネットペイント」といった、DIY向けのちょっと変わった製品の開発に携わったり、テーマパークのアトラクションの外壁のためにオーダーメイドで色を作ったりもしました。

絵具だと、昨年発売した「U-35」というアクリル絵具は、私が中心になって部署全員で協力して開発しました。U-35はユーザーさんからのご意見を取り入れながら作った製品です。色のことはもちろん、粘度、透明性、光沢などについてさまざまなご意見を伺いました。「やわらかすぎると使いにくい」「仕上がりのビニールっぽいツヤが嫌だ」などなど。絵具のスタンダードと言えばまず油絵具なんですが、その単なる代替品としてではなく積極的にアクリル絵具を選んでもらえるような製品にしたいと思って開発しました。


ーー絵具と塗料の両方を作っているのもターナーの特徴だと思うのですが、なぜそれが可能なのでしょう?他にそういったメーカーはあまりないと思うのですが。

西原:描くのと塗るのとでは、求められるものが似ているようで違います。販路も全く違うので、両方を製造販売するメーカーは確かになかなかありません。ターナーの場合は、ポスターやデザイン用の「ポスターカラー」があり、これが絵具ルートの始まり。また「ネオカラー」という看板などに使われる短期屋外用の絵具を作っていて、これが塗料の販売ルート。それぞれで動いていたので、どちらにもアクセスできたというのがひとつ理由としてあるでしょうね。

また、社会の変化に合わせて、絵具以外の製品も作っていかないと生き残れないということもあります。子供の数の減少で教材の需要は減っていっていますし、デザイン業界でも絵具はデジタルに取って変わられています。看板も今はインクジェットプリントがほとんど。商品によっては、売り上げが最盛期の2、3割まで減っているものもあります。それでも会社全体で見ると売り上げは大きくなってきているのは、やっぱり絵具と塗料の両方の技術をうまく組み合わせた新しい商品開発をしてきたからだと思います。

ターナーの塗料は、普通の塗料メーカーがやらないようなことをやろうという発想で開発されています。普通の塗料を作っても大手塗料メーカーに勝てるわけがないので、やはり絵具メーカーならではのものを作っていこうと。

塗料は普通パステルカラーのものが多いのですが、ターナーでは原色系の品揃えを豊富にして、「塗る」に加えて「描く」ことにも使っていただけるようにしています。絵具と塗料のあいのこのような製品が作れることも強みですね。例えば、布に直接描けて洗濯しても落ちない「布えのぐ」は、名前は絵具ですが塗料の要素もあるターナーらしい商品だと思います。

研究開発室:標準色との比較で製造からあがってくる色を最終チェック。


ーー研究開発室の風土、大切にしていることを教えてください。

西原:ターナーは若手の時からいろいろなことをさせてくれました。私も失敗はたくさんしましたけど、失敗よりも何もしないことの方が怒られるような会社で、チャレンジする土壌があったのはよかったなと思っています。あと、ずっと部屋に閉じこもって研究ばかりするよりも、展示会に行ったり営業に同行したり、外に出ることを意識しています。これからも、最新の知見を取り入れながら研究開発室のみんなでいろいろなことにチャレンジしていきたいです。

工場内:絵具が充填されているところ

工場内:調色をするところ

工場内:工場では1色ずつ色彩を抽出する。仕上げはこのローラーミル。圧力の力加減一つで色味が変化するまさに職人技である。

ターナーの工場の至る所に、様々な形で色彩が溢れている。


絵を描く以外にも、日常に色彩の楽しみを

デザイン・プロモーションチーム 花本京子さん

ーー花本さんのいらっしゃるデザイン・プロモーションチームはどんな部署ですか?

花本:ウェブサイトの運営やリリース発信などの広報業務やイベントの企画運営を中心に、商品企画に関わったり、カタログ制作やフライヤー、店頭対応などの営業活動のフォロー、SNSの発信などいろいろなことをやっています。今はコロナで減っていますが、店頭でワークショップをして直接ユーザーさんとお会いすることもあります。


ーー花本さんがターナーに入社したきっかけはなんですか?

花本:私はもともとデザインの学校に通っていて、その後デザイン事務所などに勤務していたのですが、転職先を探していた時に学校時代の先生からターナーが求人を出していることを教えてもらって、応募しました。アクリルガッシュをずっと使っていたので、ターナーは馴染みのある会社でしたね。


ーーターナーはアワードやギャラリーの運営などの文化活動も行われていますよね。その中からまず、ターナーアワード[2]について教えてください。

花本:ターナーアワードは今年で32回目になりました。学生さんの作品発表の場として、若き才能の発掘とアクリル絵具とアートの可能性を探求していくという趣旨で、1990年からずっと続けています。35歳以下の学生(絵画教室やオンライン教室の生徒も)であれば誰でも応募できます。あと、ターナー製品を使って描いていただくということをお願いしています。

アワードを創設した当初の目的はアクリルガッシュの周知・PRだったと思うのですが、今は「継承」も重要であると考えています。ターナーには、みなさまにご愛顧していただいているアクリルガッシュを今後も見守り育てていく義務があると思っています。同時に、これからアクリルガッシュに出会う若いみなさんを応援し続けたい。そんな思いで毎年開催しています。今では学校の先生が授業に組み込んでくださるなど、美術授業のスタンダードとして定着しつつあります。

工場内にはいたるところに、ペイントで彩られた絵がある。
「社員たちが描いたんですよ」と花本さん

ーー最近はアーティストのコミュニティづくりもされていますね。

花本:今年(2021年)の6月に「TURNER U-35 COMMUNITY」[3]というアーティストやこれからアーティストを目指す、創作活動をしている全ての人をサポートする参加型のコミュニティサイトを立ち上げ、登録者数は10月末には2000人を突破しました。ここでは、ターナーから情報を発信するだけでなく、メンバーも自由に記事を投稿することができます。

このサイトを作るきっかけとなったのは、平尾と西原の話にも出てきた「U-35」という新しいアクリル絵具です。ターナーの持っている力を総結集する意気込みで作った絵具なので、一方的に売るだけではなく、買っていただいた後もユーザーの方とキャッチボールを続けていきたいと思ったんです。そのためにどうしたらいいのか、若手社員で「U-35チルドレン」というチームを作って考え、その中からこのコミュニティサイトのアイデアが出てきました。

今、このサイトでは、U-35開発の裏側に迫る「開発コードUA00」[4]という連載を行っています。全色、全メディウムに関して、それぞれの開発を担当した者が裏話を語るんです。色名の由来だとか、私たちも知らないようなレアな話が次々と出てきておもしろいですよ。そうやって、他の部署も巻き込みながら会社ぐるみでコンテンツを作っています。

コミュニティメンバーから質問を受けることもあり、その回答はみんなにシェアしています。サイト内にはイベントカレンダーも設けていて、メンバーの方の展示やイベントの情報などを載せています。サイト上でユーザー同士が意見を交換しあったり、新しい発見を共有したりして、みんなで上を目指してほしい。そういうアートシーンを盛り上げる交流の場にしていきたいですね。私たちが思いつかないようなことも含めて、いろいろなことが生まれていけばいいなと思っているので、みなさんに本当に自由に楽しく使ってほしいです。


ーーこれから、ターナーは社会においてどんな存在でありたいと考えていますか?

花本:今、ターナーでは、お家の玄関先やお店の入口などにペイントDIYで作った小さな「お庭」を飾って日常を明るくしようという「プチガーデン」を提唱しています。「ペイントで人・街・地域へ貢献したい、ペイントを使ったDIYをもっと身近に楽しく感じていただきたい」という想いで、街中を明るく彩っていきたいと思っています。[5]

プチガーデンプロジェクトの冊子


最近ようやくコロナが落ち着いてきたので、まずは近隣地域からワークショップも始めていこうと思っています。ご近所の小学校でワークショップを開催して作ったものを商店街に飾るという計画も進んでいますし、会社の近くのマンションの住人の方に「こんにちは、ターナーです」とご挨拶がてらワークショップのご案内をしたりもしています。


ーー絵を描くこと以外にも、色を楽しんで生活の中に取り入れてもらいたいということですね。

花本:そうなんです。白い紙と絵具と筆をいきなり渡されると私自身でも戸惑ってしまうんですが、何かを塗りましょうって言うとすんなり取り組める方が多いんです。なので、「塗る」から慣れていただいて、ゆくゆくは「描く」にも広がっていったらいいなと。コロナ禍で気分も落ち込みがちな今だからこそ、日常を彩って気持ちを明るくしていくことは大事だと思います。

(左から)花本京子さん、西原克俊さん、 平尾彰一さん


注釈

[1]U-35

[2]ターナーアワード

[3]ターナーU-35コミュニティ

[4]開発コードUA00

[5]ターナー社のHPには多くのDIYアイデアが掲載されている。


INTERVIEWEE|

ターナー色彩株式会社

・平尾 彰一(ひらお しょういち):アート事業部副事業部長 次長

・西原 克俊(にしはら かつとし):研究開発室 部長

・花本 京子(はなもと きょうこ):本社営業部 企画・プロモーションチーム 主任


INTERVIEWER|新原 なりか(にいはら なりか)
大阪を拠点に活動するライター、編集者。香川県豊島の美術館スタッフ、ウェブ版「美術手帖」編集アシスタントなどを経てフリーランスに。インタビューを中心に幅広いジャンルの記事を手がける。