展覧観測のこれまでとこれから

展覧観測のこれまでとこれから

+5(plus five)
2026.07.31
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+5の教育プログラムとして、現在もさまざまな場所で鑑賞と対話の場を開く「展覧観測(てんらんかんそく)」。2019年に発足してから早7年の時が流れたが、どのような変遷を辿って現在まで活動が継続しているのか。本記事を通して今までの軌跡をまとめておきたい。(+5編集長 桐)

展覧観測ロゴ

展覧観測とは

展覧観測が生まれた背景には、姉妹プロジェクトである展覧会アーカイブ事業「ART360°(ART THREE SIXTY)」【※1】がデジタルアーカイブした展覧会を、どのように利活用していくべきかという問題意識がある。

ART360°は2017年に辻さん(辻勇樹)が企画を西枝財団に出し、2018年に立ち上げたプロジェクトであり、その根幹には、KYOTO GRAPHIEで展覧会を作ってきた辻さんが、生まれては消えていく展覧会と、鑑賞体験そのものを残していきたいという想いがある。写真や2Dではなく、360°映像でバーチャルアーカイブすることで、身体的な鑑賞体験が記録できるのではという考えの元、ART360°はスタートしている。

ディレクターの辻さんは、初年度からはアーカイブだけでなく、それをどのように利活用し、フォーマット化して教育普及活動にできるかということを考えていた。その議論の相手として選んだのが、今でも+5で展覧観測を担当している矢津さん(矢津吉隆)である。矢津さんはkumagusukuという当時アートホステルだったスペースを保有しており、「展覧会に泊まる」という特異な体験を日々提供していた。矢津さんはリアルで、辻さんはバーチャルでの鑑賞体験を拡張させようとしており、二人はその体験を対話に結びつけるにはどうすればいいかという議論を行った【※2】。

二人は、鑑賞体験と対話を同時に生み出す「場所」そのものが必要であると考え、2019年3月にアートホステルkumausukuにART360°の体験ブースを設置。展覧会を当時最新だったVRヘッドセットOculus GOにインストールし、誰もが展覧会をヴァーチャルで鑑賞できる仕組みを構築する。これが展覧観測の前身となる。

KYOTO ART HOSTEL kumagusuku:ART360°ブースの様子

鑑賞教育のプログラムとして

鑑賞体験の場を作るという構想はプロトタイプとしては有効に機能した一方で、鑑賞体験と対話を鑑賞者に委ねるだけでなく、自分たちで体験と対話のフォーマットを作る必要性を二人は感じる。

議論を進める中で二人が問題意識として共有していたのは、現行の学校教育の中での美術の役割である。特に義務教育において、美術の授業は「表現」と「鑑賞」に分けられるが、この「鑑賞」はしばしば教科書や図録を眺めるだけの紙ベースの行為にとどまり、時間の多くは「表現」つまり制作に割かれてきた。実際、2021年度に全面実施された現行の中学校学習指導要領で初めて「各学年とも適切かつ十分な授業時数を確保すること」という文言が加わるまで、鑑賞の指導は「表現との関連を図る」ことが求められるにとどまっていた。展覧観測が発足した2019年は、まさにそうした鑑賞軽視という課題意識が現場で広く共有されつつあった時期でもある。

同様に、実際に展覧会や美術館に足を運ぶ校外学習(課外授業)も減少傾向にあり、その背景には学習指導要領で定める「時間」の問題に加え、授業内で子供が安心して授業を受けられる環境を用意するという「安全性」という観点もある。しかし極端な話、展覧会を授業に持ち込むことさえできれば、次世代の子供たちに、新たな角度で鑑賞体験を提供できるのではないか。そう考えた辻さんと矢津さんは、鑑賞教育プログラム「展覧観測」を発足。主には中学、高校の美術の授業にインストールすることを目指した。

展覧観測という名称は、「天体観測」をもじったもので、星を見るように展覧会を広く深く、つぶさに見ていくことを目的としている。過去のインタビューでこの名前について、矢津さんは以下のように語っている。


「星の数ほど開かれている展覧会の中で、自分たちがアプローチできるものなんて本当にわずかだけれども、ある種天体観測をするように、展覧会をピックアップして、それを観測する。星であれば、星座を作りそこにある物語を語ったりするじゃないですか。そう言ったことをやりたいなっていうことで、展覧観測っていう名前を付けました。」(+5「体験する場を作るということ」から抜粋)

そこから二人はプログラムの設計に関わることになるが、もう一人、アーティストの山田毅さんの存在も大きい。山田さんは、+5の前身となる「関西アートビート」で「KABlog」という記事コンテンツの編集長を務め、+5の立ち上げにも関わっている(+5という名前の名付け親でもある)。ART360°と+5ではメディアキュレーターとして関わり、プログラムの設計を担うとともに、実際に学校でVRワークショップ講師として授業を行い、鑑賞対話のための空間を丁寧に作っていた。

山田さんを含めた3人は、まずは学校での実施を目指し、3人は知り合いのアーティストである森夕香さんに相談。森さんが当時務めていた比叡山中学の美術の時間で開催できる運びとなった。

森さんの美術の授業時間を一部お借りして実施した。

VRヘッドセットで展覧会を鑑賞をする様子。
授業の様子

展覧観測は数時間をかけて、1年生〜3年生までそれぞれ実施した。ここで当日実際に展覧観測を受けてくれた学生さんたちの感想も紹介したい(以下、原文ママ)。

1年生:男子

そこにいかなくてもいいと、360°みれて、とてもおもしろい。ちょっとこわかった。いろいろな作品があって不思議だった

1年生:女子

こんなVRははじめて見ました。美術作品のよさがすごく伝わり、行ってきたような感覚が味わえました。とても楽しく、おもしろかったです。今度は本当に行ってみたいです。

2年生:女子

初めてVRを体験してみて、すごいなと思ったし、おもしろかったです。班のみんなとこれまであまり交流ができていなかったのですが、今回みんなでしっかり交流することができました。

3年生:男子

360°みれるゴーグルは初めて体験したが、視界がいつもより狭かったため、1つの作品に集中してみることができたので、1つ1つの作品がどのような形や素材であるかがみれて楽しかった。

中学生たちの反応は正直なもので、その他にもVRは面白い一方、自分の身体感覚と違うので怖いという意見や、アートそのものがよくわからないけど、興味が得られたなどの意見も数多くあった。

左から辻さん、山田さん、森さん、矢津さんに加え、ART360°のテクニカルディレクターをしていた上峯敬さん。

ワークショップとしての展覧観測

比叡山中学での経験を元に、展覧観測チームは、kumagusukuでさらに展覧観測の可能性を深めていく。2019年には全2回のワークショップを実施。初回には、ART360°がアーカイブした「金氏 徹平 | クリスピーな倉庫、クリーミーな部屋 OPEN STORAGE 2017 - 見せる収蔵庫 -」(MASK (Mega Art Storage Kitakagaya))を題材に、デジタルアーカイブと鑑賞についての対話を重ねた。

展覧観測#01『金氏 徹平|クリスピーな倉庫、クリーミーな部屋』

展覧観測#02『毛利悠子|ただし抵抗はあるものとする』

回を追うごとに、対話の流れやポイントなどをつかんでいった矢津さんたちは、2020年くらいから、対話のフォーマットを作り始め、2021年に展覧観測のフォーマットを完成させる。

対話の手法と機器について

展覧観測の対話のフにォーマットは、開催場所、鑑賞者(一般向けか、学校教育向けか)の特性によってもいくつかのパターンがあるが、スタンダードな手法としては以下のような流れで対話が進むことが多い。

一般向けの場合

  1. 展覧観測についての説明
  2. VRヘッドセットとワークショップの流れについての説明
  3. 今回取り扱う展覧会の基礎情報について簡単にコーディネーターから説明
  4. 鑑賞:10分〜15分程度
  5. 見たもの、印象に残ったものを展覧観測カードに書き出す
  6. そのカードを中央に集める
  7. 他者が書いたカードで気になったものを順に選んでいき、書いた人がそれについて話す。他者が話している時は、話を遮らない
  8. 7を繰り返し、対話を深めていく
  9. 最後にアーティスト情報、制作背景、同アーティストの他の展覧会などについても触れながら印象や理解を広げていく
展覧観測カードに書かれた鑑賞を紐解くためのキーワード
中央にある石は「発言石」と山田さんが名付けたもので、この石を持っている人が話している時は他の人たちは話を遮らない。自分の意見をまとめることが苦手な人への配慮でもある。

学校向けの場合

最初の説明は一般向けと同じだが、学校の場合は2人1組でヘッドセット1~2台をシェアして使用する【※3】。

  1. 展覧会の鑑賞者役と聞き手役に分かれる
  2. 鑑賞する人は5~10分程度鑑賞し、見えたもの、感じたことを言葉にする
  3. 聞き手は鑑賞者の言葉を書きとめ、それに対しての質問を重ねる
  4. 4~6を5分ずつくらいで回していく。
  5. グループごとに体験を共有する
  6. 時間があればアーティストの情報も伝えていく

鑑賞者の発言を聞き手が書きとっている様子

展覧観測を実施するにあたり、必須となるのが360°映像をポータブルに再生できるVRヘッドセットである。最初に使用したのは、2019年当時、VRヘッドセットとしては最先端だったOculus GOを使用している。2018年5月に発売されたOculus Goは、それまでのVRヘッドセットの制約を大きく変えた製品だった。先行品としてあったOculus RiftやHTC Viveは高性能なPCとの有線接続が必須であった。Gear VRのようなスマートフォン装着型は手軽だったが、スマホの性能やバッテリーに引っ張られ、装着感も含め本格的な体験とは言えなかった。Oculus Goはこれらの中間に位置する「スタンドアローン型(一体型)」を初めて実用レベルで普及させた製品で、PCもスマホも不要、単体で電源を入れればすぐにVR体験ができるという手軽さと、32GBモデルで23,800円という安価で購入しやすく、VRヘッドセットの世界に革命を起こすものであった。

Oculus GOにART360°のロゴを貼り付け利用していた。2024年からは、後続器として当時最新だった、Meta Quest3を使用している。

コロナ禍の展覧観測

比叡山中学での実施も終え、いよいよ様々な学校に広めていこうとしていた矢先に、新型コロナウィルスが蔓延し、一定の人数以上が密になって対話を行う展覧観測は、学校側から受け入れられず、縮小を余儀なくされた。筆者が+5に関わり出したのは、ちょうどコロナの渦に社会が飲まれていた2021年初頭で、緊急事態宣言の発令などもあって、初めて会を目撃できたのは、2021年4月、参加人数を5人に絞って実施したものだった。

2021年の展覧観測は、ART360°が金沢21世紀美術館のプロジェクト工房で実施した展覧会「金氏徹平アーカイヴス これからのアートを記憶する方法」【※4】に連動する形で実施した回のみが唯一外で実施できたもので、残りは全て、感染拡大防止のため、人数を最小限に落としてパーテーションを用意し、マスク完備で細々と実施することとなった。


ART360°のオフィスで実施している様子

パブリックに開く

2022年度からは組織の一部体制変更に伴い、筆者が展覧観測のディレクションを担当することになった。このとき最も意識していたのは、コロナ禍で一時的に失われてしまった対話の場を、どう取り戻すかということだった。そこで、街で誰でも気軽に参加できること、そして展覧観測と同じように対話の場を求めている場所と連携できることを条件に、新たな開催場所を探していった。

その際に協力してくださったのが、京都にある3つのアートホテルだった。コロナ禍を通してホテル産業も大きな打撃を受けていたが、それでも協力してくださったBnA Alter Museum、KAGAN HOTEL、HOTEL ANTEROOM KYOTOは、むしろそうした状況だからこそ、鑑賞者を取り戻すための先鋭的な取り組みを日々模索されていた。BnAの筒井一隆さん、KAGANの日下部淑世さん、そしてANTEROOMの上田聖子さんという、素晴らしいディレクターの皆さんと同じ問題意識を共有できたことで、実施が実現し、各場所だからこその時間が生み出せた。

展覧観測 IN BNA ALTER MUSEUM,KYOTO
展覧観測後は、BnAディレクターの筒井さんご案内の元、ホテル内のコンセプトルームを巡り、最後は1Fのエントランスで簡単に交流を行なった。

アートホテルはその名の通り、アート作品が常設されているホテルである。BnAとANTEROOMは客室のいくつかが、アーティストが作成したコンセプトルームとなっており、KAGANはホテルのコレクションを部屋まで持っていけるというシステムを持っている。通常鑑賞時間というのは、ミュージアムやギャラリーで見る際は、長くても数分にとどまるが、宿泊という体験を通すことで何度も同じ作品を目にすることになる。矢津さんとの協働によってすでにわかっていたことではあるが、宿泊体験にアート鑑賞が重なる特殊な場所で、鑑賞対話を深めることで、それそのものについて、より深く考える時間となった。

展覧観測 IN KAGAN HOTEL
KAGAN HOTELには複数のアーティストがレジデンスプログラムに参加して寝食を共にしているが、当日は展覧観測の対話後、レジデンスアーティストたちの収蔵庫などをみる機会も得られた。

展覧観測 in HOTEL ANTEROOM KYOTO
ANTEROOM KYOTOでは、展覧観測後に、同ホテルのギャラリー「GALLERY 9.5」で開催していた展覧会「問題のシンボライズ ー彫刻・身体・男性性ー」を全員で鑑賞。出品作家たちから作品の説明も受けながら鑑賞を多角的に深めた。


アートホテルで実験的に何度か対話を重ねた後、展覧観測はさらに対話の場を広げ、作家のアトリエや大学ギャラリーなどでも開催した。
学校教育のプログラムとして始まった展覧観測はコロナ禍で存続の不安とプログラムの再設計に悩まされたものの、パブリックに開くことで、アーティスト、大学関係者、アートファンやその他地域の人々も巻き込み、鑑賞対話を広げることができた。

そこでの経験を元に、現在の展覧観測は、このパブリックに開く会と学校に持ち込む会を組み合わせながら、年6回のペースで開催されている。

展覧観測 in 作家のアトリエ vo.1|日本画家 森夕香
森さんのアトリエで実施した展覧観測。ファシリテーターを森さんが行うことで、作家の視点で展覧会を紐解くような機会となった。

展覧観測 in 京都精華大学ギャラリーTerra-S

鑑賞者とどう向き合うプログラムか

2023年度から、展覧観測は再度矢津さんが担当し、学校での実施も再開。今も様々な場所で開催している。最後に矢津さんとの対話で本記録を終えたい。

桐:展覧観測も早いものでもう7年ですよね。展覧観測は最初から学校で実施するということを意識されていたんですか?


矢津:
そうですね。辻さんとは結構最初から学校でやることを話しあってはいたんですけど、比叡山中学で実施する前に、別バージョンもあったんですよ。


桐:
比叡山中学が第一回目だと思っていました。


矢津:
公式としてはそうですね。やっぱり中学生とか高校生とか、普段アートに触れたことがあまりない人たちに向ける形でチューニングされていったんですけど、もうひとつの形として、アートをそれなりに勉強していたり、素養がある人たちに向けた、より鑑賞を深掘るための展覧観測の形もあったんですよね。ただ話しあいの末に、まずは美術の入り口のような形になるといいって話をしていて。


桐:
そのもうひとつの展覧観測は、どういう目的で作ろうと思われていたんですか?


矢津:いや単純に鑑賞に展覧会を見て、それを語る場があまりないなって話してて。鑑賞とその体験を語ることってなかなかセットにならないじゃないですか。だからもうひとつの展覧観測は、展覧会をVRでみて、その内容を話して、さらに別の展覧会やアーティストの二次情報にもアクセスして対話を広げていくっていう形でした。展覧会の鑑賞後、展覧会をもう一度最後味わい尽くすみたいなね。


桐:
その形って、コロナ禍の時にART360°の事務所で開催していた形と限りなく近いですよね。


そうですね。そういう考えが元になっていたと思います。展覧会を見て、その後にその展覧会についての作家のインタビュー映像を聞いたり、図録を見たり。展覧会のアーカイブ映像から他の記録に繋がっていくというのもいいですよね。

矢津さん(左)と筆者(右)
事前の打ち合わせなどで提供する2次情報を絞ってリストにし、どのように展開するかなどを話しあっていた。
展覧会を深ぼるにあたり、デジタルアーカイブ以外に特に重要だったのが、展覧会図録であった。
ART360°ではデジタルアーカイブの際に、教育利用目的としてしばしば美術館から図録をご寄贈いただくが、展覧観測で有効活用されていることが多い。

桐:矢津さんは展覧観測のやり方みたいなものを何度も試行錯誤しながら変えてこられてきましたが、最近、ようやくわかってきたみたいなことをこの前話されていましたよね。


矢津:うん。そもそも展覧会の鑑賞体験を言葉にするっていうところが、目的であり、課題でもあると思うんですよね。こっちが準備していても、話がどんどん出てくるわけじゃないじゃないですか。 だから今は、ブラインド・トーク【※5】の手法を使っています。目に見えているものを人に伝えるから、必然的に会話が生まれてくるし、答え合わせがあるから対話も広がります。それに自分の想像の中の展覧会と実際にVRで見る展覧会っていうものを比べて、その違いみたいなことも話せてより展覧会の鑑賞のあれが深まってるような気がしますね。最後には僕からインタビューみたいなものをみんなに振っていくんですけど、作家が考えていること、作品に込めた意味とか聞いてもちゃんと答えが返ってきて。高校生以上は特にこの方法は有効だと実感しています。


桐:今年度は亀岡高校や、同志社高校など、高校で実施されることが増えてきましたよね。


矢津:高校生と相性がいい気がしますね。僕は直近、探究学習【※6】の講演でいろんな高校にいく機会が多いんですが、展覧観測の話をするとやはり反応がいいし。何度か高校で実施してみて思ったんですけど、高校生は展覧会をちゃんとみて、素直に鑑賞を楽しめる人が多い。中学生とかはVRそのものに関心がある学生が多いんで、そこは年齢の違いもあるかもしれませんが。

展覧観測 in 同志社国際中学校・高等学校
展覧観測 in 亀岡高校

桐:高校といえば、昨年9月には、京都市内の私立高校の美術の先生たち向けにも展覧観測を実施しました。学校では学生に体験してもらうのが一番ですが、先生たちにも改めて鑑賞とは何か、一緒に考えていけるといいですよね。


矢津:そうですね。アートの現場に関わっている方とも、展覧観測を共有する中で、鑑賞の課題とかあり方とか色々な話ができるといいですよね。年々感じていることではあるんですけど、アートに関心を持っている人が少なくなってきているんじゃないかという危機感が僕にはあって。


桐:本当ですか?肌感では、例えばビジネスの世界とかでは注目されて、むしろ興味を持ってくれている人も増えている印象ですけど。


矢津:ビジネスの世界はそうかもしれませんね。ただ芸大で教える中で、展覧会を見に行かない学生や、アートそのものに興味はあっても、深めることにはそんなに関心がない学生とかも多くて。共通言語としてのアートっていうのは今あるのかなって心配になっています。だから中学生や高校生の時に、少しでもアートに興味を持ってもらうためのきっかけにしたいなというのは、展覧観測をやっていて思っていますね。


桐:展覧観測は、今は矢津さんの力を借りつつこちらから学校に働きかけていますが、もっと認知が広まって、関心のある学校から自然と問い合わせがくるといいですね。西枝財団の公益事業ということもあって、こちらが何らかの費用をとることもありませんし。うまく学校や様々なスペースと連携する機会をこれからも作っていきたいですね。


矢津:そうですね。いろんな場所での可能性を探りつつ、美術に興味関心を持つ人が増えるといいなと思います。

注釈

【※1】ART360°(ART THREE SIXTY)


【※2】 議論の詳細などは、+5の最初の記事でもある以下にまとまっているので参照されたい。

「体験する場を作るということ」

【※3】 20名弱まではこの形式で、それ以上の規模になると、3人1組などグループになって行っている。

【※4】 「金氏徹平アーカイヴス|これからのアートを記憶する方法」金沢21世紀美術館(2021)


【※5】ブラインド・トーク
京都芸術大学のアート・コミュニケーション研究センター(ACOP)などで開発された手法で、2人1組のペアになり、1人が目隠し(アイマスク)をして、もう1人が絵画などの作品を見ながら、目隠しをしている人に作品の様子を言葉だけで伝える。展覧観測も同様に1人がヘッドセットをつけて鑑賞し、もう1人が聞き手となって観測したものを聞き取っていく。

【※6】探究学習
学生が自らの興味・関心に基づいて、課題を見つけ、深く掘り下げて解決策を探し出す学習方法で、 2022年度より高等学校の総合の授業枠内で、探究学習を行うことが必修化された。受動的だった従来の授業形態と異なり、自ら率先して学びにいく「能動的学習」を通して変化が激しく、正解のない時代を生き抜く力をつけていくことが期待されている。探究学習において、アートの鑑賞や表現が学生個人の問いを立てる方法として注目されている。

WRITER|桐 惇史(きり あつし)

NPOでの国際協力活動、教育業界での経験を基軸にライター・編集者として経験を積む。近年はアートを通した言論空間の拡張をキーワードに様々なプロジェクトを実践し、現代社会におけるメディアの役割を再考している。+5(plus five):編集長、ICA Kyoto Jounal:Editorial Director