大山里奈さんと語る、Katsurao Collective 5年間の活動の軌跡 後編:制度の終わりという出発点

大山里奈さんと語る、Katsurao Collective 5年間の活動の軌跡 後編:制度の終わりという出発点

現代美術家|大山里奈
2026.07.24

前編に引き続き、福島県双葉郡葛尾村(かつらおむら)で実施されていたアートプログラム「Katsurao Collective」の変遷を辿る。後編では、アーティストや事務局スタッフと地域社会との関係性の変容、そしてこれからの葛尾村について語り合った。前編同様、元スタッフの大山里奈さんと筆者(阪本健吾)による対談で振り返る。

「かつらお企画室」において年末恒例となった藁もじりワークショップ。村内外の人々が創造性という価値でつながる場をつくり続けた 。
photo: Nagai Fumihito


2024:「いること Cafe しずく」という場の力

阪本:Katsurao Collective として活動を行ったのは2022年4月から2026年3月までの4年間でした。大山さんにとってのターニングポイントはありましたか?



大山:2023年の春に、村内のある物件を個人的に借りて内装をリノベーションし、2024年7月に「いること Cafe しずく」をオープンしました。レジデンス中のアーティストが偶然の出会いからリサーチに入ることができるような環境をつくりたかったんです。カフェをつくった理由はいくつかあるので、そのうちのひとつにすぎないのですが。

葛尾村 「いること Cafe しずく」でのワンシーン

阪本:Katsurao Collectiveのプログラムとは関係なくご開業されましたが、コレクティブとしての活動にも大きく影響していたのですね。それまでは作家の興味に合わせて、地域にいる特定の方にアポイントをとって訪問するというようなパターンが多かったように思います。


大山:
多くのアーティストが滞在してくださったので、コーディネーターとしては、ひとつひとつアポイントメントを取って取材に同行するのは少し大変でした。ここに来れば誰かに出会う。そんな場をつくれば、アーティストと地域の方が勝手に出会って、ものごとが転がっていきます。


阪本:
誰が何に詳しいか、地域の方がいちばん良く知っていますもんね。その場で紹介しあってくれる。アーティストにとっても、地域コミュニティのあり方を肌で感じながらリサーチに入っていけますね。


大山:
それから、地域のみなさんからの「リサーチの時間が長くて大変だった」「訪問の時間帯を考えてほしい」といった小さな声も、カフェという場であれば吐き出してもらうことができました。「ごめんなさい、次から気をつけますね」と言って、事務局として改善することができたんです。そういったお声をいただけるのは、とてもありがたかったですね。


阪本:
大山さんが数年かけて地域のみなさんと関係を築いてきたからこそ、そのような場が生まれたのだと思います。

地域に理解者がいるということ

大山:他にも、事業開始当初から藁もじりワークショップの講師をお願いしていた遠藤英徳さんは、いつもたくさんの村の仲間たちを呼んで集まってくれました。


阪本:ワークショップ「かつらお企画室」の講師は、基本的には村外在住のクリエイターでした。ただし、年末恒例の藁もじりワークショップだけは、遠藤さんたちにお願いしていましたね。

遠藤英徳さん(右下)とコーディネーターの大山里奈さん(右奥)。
2024年の藁もじりワークショップにて。


大山:私たちのわがままに、いつも前向きに付き合ってくれる頼もしい存在です。藁もじりワークショップでしめ飾りをつくりながら、お正月明けの恒例だった「どんと祭り」を復活させたいですねと話していたら、「やろう、やろう」と盛り上がって、ほんとうに実現しました。


阪本:正月飾りを炊き上げる「どんと祭り」は神事なので、行政からの委託事業である Katsurao Collective では扱わず、実行委員会が組織されました。このプログラムがきっかけで途絶えていた季節行事が復活したことには大きな意味がありましたよね。


大山:「やる」と決めたらそこに向かって楽しく進んでいく、そういう推進力がある人たちです。コメを育てて、出た稲わらをしめ飾りにして、炊き上げてまた田んぼに撒く。環境のなかでの自然循環という意味でも、現代にこそ大事な営みだと思っています。

2025年1月、14年ぶりの復活を遂げた葛尾村どんと祭り


阪本:それから、地元の畜産農家の下枝宏通さんの役割も大きかったですよね。私たちやアーティストと年齢も近く、特に2024年度以降はアーティストのリサーチにたくさんご協力をいただきました。滞在期間が終わると「みんなが帰ってしまって寂しい」とアーティストロスになっていたのがとても印象に残っています。


大山:活動を一緒に楽しんでくれたのが嬉しかったですね。アーティストの活動場所として土地を使わせていただくために、地主の方との交渉が発生することがあるのですが、彼がやるとすごく話が早いんですよ。よそ者がコーディネートしていると突破できない部分がたくさんあるんです。


阪本:
地元の方のご協力はほんとうに重要ですね。2024年以降は、そういった地域でのコミュニケーションがより有機的に転がっていくようになったといえるのかもしれません。

Katsurao AIR 2025 滞在アーティスト 丹治りえさんによるイベント《草刈り畑の収穫祭》の様子。
村内のとある荒れ地をスコップで掘り起こし、実寸大のピクニックシートに印刷した。活動場所の調整等のさまざまな形で、下枝宏通さんら地域のみなさんが協力した。
photo: Nagai Fumihito

2025: 場所と作家がともに育つというあり方

阪本:事業最終年度となった2025年は、Katsurao AIR において Group & Family Program や Youth Program を導入し、多様な形態で作家の受け入れを行いました。Group & Family Program では夏休みの時期に合わせ、子連れのアーティストが滞在しましたね。託児機能があればもっとよかったというフィードバックをいただきましたが、これはアート活動に限らず地域のウェルビーイングそのものにも関わる重要なトピックだったと思います。


大山:Youth Programでは、まだ自身の制作スタイルが確立していない若い作家も地域で活動を展開しました。もちろん実績がある作家を呼ぶことで事業の認知を獲得できる面はあるのですが、これから自分の表現をつくり上げていくという段階の若い作家が地域に滞在すると、本人にとって葛尾村での時間がとても大きな原体験のひとつになり得ます。


阪本:
実際に Youth Program で滞在した20代のアーティストは、その後も葛尾村に通い続けていますよね。本人たちと話をしていると、アーティスト自身にとって葛尾村という場所が大切な存在になっていると感じます。地域側にとっても、いわゆる関係人口が結果的に積み上がっているんですよね。


大山:
はい。場所も育つし、作家も育つ。そういう関係性ができやすいのは、若い世代の滞在なのかもしれません。

Katsurao AIR 2025 Youth Pragram 参加アーティストの松本実季さん(右)は、滞在期間が終わった後も地域の編み物の師のもとへ通い続けている

Katsurao Collective とはなんだったのか?

大山:阪本さんは「Katsurao Collective とはなんだったのか?」という問いに対して、どのように答えますか?


阪本:
私が個人的に Katsurao Collective のことを説明するときによく話していたのは、地域の情報を伝える一種のメディアとしてアート活動を捉えるという考え方です。新聞記事やドキュメンタリーばかりでは、災害のことを学ぼうというモチベーションの人にしか地域のことが届かない。アートであれば、学ぶつもりなんてない、葛尾村のことを知らない人にも届く回路が生まれます。葛尾村でアート活動をすることの意義のひとつがここにある。


大山:
都市部で展示を行ったこともそうですし、作家個人が葛尾村で制作した作品を他の展覧会に出すケースもありますからね。作品が各地を旅してくれます。

2025年に開催した渋谷ヒカリエ 8/ CUBE 1,2,3 での展示企画「生なる手」会場にて。
藁もじりや編み物といった村の手仕事から写真や彫刻、ARまで、活動を通して現れた多様な「手」の営みに焦点を当てた。

阪本:大山さんは、Katsurao Collective の活動にはどんな意義があったと思われますか?


大山:
私は、アート活動が「生きやすい地域をつくる」ことに資するのではないかと思っています。アーティストが生きやすい地域は、多くの方にとって生きやすい地域になるはずです。


阪本:
活動のなかでは、これまであまり人と関わってこなかった住民の方が、アーティストと意気投合している場面もありましたね。普段の人間関係から少し脱して、好奇心や感性をもとにしたコミュニケーションができる状況は、ひとつの救いなのかもしれません。


大山:
そういったコミュニケーションが常態化していけば、結果的に移住促進にもつながるのではないかと思います。

Katsurao AIR 2025 滞在アーティスト 犬丸暁さん(右)のオープンスタジオでのワンシーン。
地元のソウルフード「凍み餅(しみもち)」を、自らの制作テーマとクロスオーバーさせた
photo: Nagai Fumihito


事業をどう評価するか

阪本:一方で、行政からの受託事業としての評価に関しては、常に数値が求められてもいたように思います。


大山:
当初は移住者数が主な指標として位置づけられていましたが、移住者向けの住宅の数が限られていたため、ある時点からは本事業で獲得した関係人口をモニタリングすることになりました。葛尾村では被災家屋の解体が行われたことから、他の地域より空き家を見つけづらかったのです。


阪本:
このあたりの話は、仕事をする中で特に違和感を覚えたポイントでした。まず第一に、「関係人口は移住者になりうる層である」という認識は正当なのか。部分的にはそうなのでしょうが、関わり方の質や濃淡によって事情は全く異なるので、「人口」として数を追うだけでは実態が掴めないと思います。


大山:
数値だけではなく、現場で起きていることの質的なディテールを行政や議会に対して伝えるというアプローチがもっと必要だったのかもしれません。私たちが何を大事にして活動を進めているのかということが、そこから見えてくるはずなので。


阪本:
そして第二に、そもそもの「移住促進」という大きな目的に関してです。日本全体の人口減少トレンドが明白となっている中で、自治体同士が人口を取り合うゼロサムゲームに活路を見いだしていること自体に、大きな疑問を感じています。

人口減少時代における公共事業のあるべき姿

阪本:さらに、地域のみなさんの中からは、アートの取り組みに多額の予算をかけて、それに見合った経済的なリターンが地域にもたらされるのかという問題意識も聞こえてきています。村役場との間では、事業開始当初から「すぐに成果が出るわけではないけれど、長期的な地域ブランディングのために必要な取り組みです」というコミュニケーションを図っていましたよね。


大山:
実際に、事業期間が終わった2026年4月以降も、アーティストと村内企業の連携がはじまったり、過去のプログラム参加者が移住したりと、少しずつ小さな成果が生まれ続けています。どの地点から振り返るかによって、どう評価するかは変わります。まだまだこれからなんですよ。


阪本:
アートの取り組みだけに着目すればお金をかけすぎていると見る人もいるでしょうが、そもそも道路を敷くことひとつとっても、地方に資本が投入され続けています。人口減少や気候変動などの現代社会における諸課題を念頭に置きながら、どこにいくら予算をつけて何をするのかを、抜本的に再考しなければならない時代になったともいえる。そのなかでアートやクリエイティブも人間に必要なインフラであるととらえるならば、それらが地域社会に対してどのように力を発揮するのかということは、非常に探究しがいのある問いだと思います。

Katsurao AIR 2025 Youth Program で滞在した杉山仁彦さん(左)は、葛尾村民の遠藤英德さん(右)とともに土窯を作成。葛尾村に陶芸の文化を生み出すべく、2026年現在も引き続き当地で活動している

道半ばの「翻訳」と事業の終了

大山:地域でのアート活動には、さまざまな「翻訳」が必要です。地域のみなさんへの翻訳、村外にいるアートやクリエイティブに関心がある方々への翻訳。先ほども少し触れましたが、その中でも特に行政や議会に対する翻訳は、まだまだ道半ばです。そんな中、5か年計画で走ってきた「地域資源の魅力を活用したアーティスト移住促進事業」が2026年3月末で一区切りを迎えました。


阪本∶
村からの委託事業が続けられないと聞きつけた心ある地域の方々が、役場に「なんとかならないか」と押しかけてくれたと聞きました。これは事業としての Katsurao Collective を残したいというより、地域の内外をつなぐ個人レベルの重要なハブとして、大山さんの存在がなくてはならないと感じた人たちがいたということだと感じています。


大山:
Katsurao Collective の活動は終了しましたが、現場で築いてきた関係性や、アーティストを受け入れる体制はこれからも続けていきます【※2】。ここからがほんとうのスタートです。


2026: おれ、アーティストになる!

2026年4月から、筆者を含むスタッフはそれぞれ別の道へと歩みを進めはじめた。大山さんは引き続き村内でカフェを営みながら、アーティストの活動をサポートし続けている。 


大山:
先日、葛尾村内の学校の現場で、ある小学生が「おれ、アーティストになる!」って言ったんです。とても驚きました。「え!? きみ、ちょっと、もう一回言って?」って(笑)


阪本:
「アーティスト」って、ミュージシャンみたいな意味ではなく、Katsurao Collective の活動で地域に滞在していたようなアーティストのことを指してそう言っていたんですか。


大山:
はい。滞在アーティストが放課後のキッズクラブにお邪魔していたので、影響を受けたみたいです。


阪本:
児童数17名【※3】の、小さな村の小学校に通う子どもたちにとって、身近な存在としてアーティストがいるという環境はほんとうに貴重ですね。制度上のプログラムは終わったけれど、種は確実に撒かれている。


大山:
農山村では人間関係が固定化されてしまいがちなので、お部屋の空気のように、地域の人間関係も換気をしたほうがいいんです。子どもたちにも、先生や親とは違うタイプのいろいろな大人に出会ってもらうほうがいい。よくわからない大人が近くにいて、よくわからないことをしながら、楽しく生きている。そんな光景が細く長く続くように、これからも取り組みたいと思います。


阪本:
前後編にわたって、地域でのアート活動の価値や意義をあらためて考える機会になりました。また葛尾村に遊びに来たいと思います。ありがとうございました!

放課後キッズクラブにて開催された、Katsurao AIR 2025 Summer 滞在アーティスト くもそらとさんによる陶芸ワークショップの様子。葛尾村立葛尾小学校にて

まとめにかえて: 制度と現場のあいだで

福島の被災地域で活動していると、制度が先なのか、人が先なのか、ふとわからなくなる時がある。多くのプロジェクトが「そこにカネがあるから」という理由で動き出し、そのカネが途切れるとともに、何事もなかったかのように終わってしまう。一方で、この地の特異な状況にむしろ可能性を見出し、現場で手足を、頭を、心を動かし続ける人々が、それぞれの関心のなかでチャレンジを繰り返していることもまた確かである。

当初は Katsurao Collective の単なる鑑賞者のひとりだった私が、のちにスタッフとして参画し、いまこの記事を書くに至っているのは、現場でのコミュニケーションを通して、この事業がただの〈復興〉アピールのための官製アートプロジェクトではないと直観したからだった。制度上はそのように見えたとしても、葛尾村に暮らし、近くで活動に関わることができた立場だったからこそ、そこにしかない現場の空気を感じることができた【※4】。

大山さんが Katsurao Collective の立ち上げのために葛尾村にやってきたわけではないということは、非常に重要なことだったと思う。ただこの地の自然とともにある暮らしに惹かれ、そこにいる人々とつながっていったことが、結果的にアート活動がある村の風景を可能にしたのである。

大きな政策や事業そのものの是非と、現場での小さな行動ひとつひとつの是非は、また別のものであるとあらためて思う。大きな流れに翻弄されながらも、小さな積み重ねを続けてきたからこそ、その先に思いも寄らない成果が待っている。思いも寄らないのだから、今はまだ「Katsurao Collective とはなんだったのか?」という問いに対する答えは保留せざるをえない。

Katsurao Collective は、プロジェクト名であり、共同体の名前でもあった。人と人、人と土地との関係性をもとにした、ゆるやかなネットワークである。つまり、その関係性が続く限り、Katsurao Collective もまた形を変えながら続いていくといえる。

《復興》のその先にみえる風景を、見つめ続けたいと思う。

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※写真提供:Katsurao Collective 事務局(一般社団法人葛力創造舎)、葛尾村どんと祭り実行委員会、大山里奈

注釈

【※1】日曜日・月曜日営業。最新情報は いること Cafe しずく 公式インスタグラム を参照(2026年7月12日閲覧)

【※2】後継事業として Katsurao Creators Commons(Katsurao Creators Commons実行委員会)がアーティストの受入れを行っているほか、合同会社いること による地域でのワークショップが継続的に開催されている。(2026年7月12日閲覧)

【※3】葛尾村公式サイトによる(2026年7月12日閲覧)

【※4】Katsurao Collective の公式 YouTube チャンネルでは、Katsurao AIR 滞在アーティストのアーティストインタビュー動画(撮影:Katsurao Collective 事務局、編集:岡安賢一(合同会社 岡安映像デザイン))を閲覧することができる。(2026年7月12日閲覧)

INTERVIEWEE|大山 里奈(おおやま りな)

現代美術家。1984年茨城県生まれ。アーティスト活動の傍ら、福島県葛尾村で「いること Cafe しずく」を営む。2025年度まで同村のアートプログラム Katsurao Collective にてコーディネーターを務め、2026年現在も地域で暮らしながら、人と環境、人と時間の関係性について探究を続けている。

INTERVIEWER|阪本健吾(さかもと けんご)

ライター。1996年兵庫県生まれ。2023年10月から福島県葛尾村のアートプログラム Katsurao Collective に広報担当スタッフとして加わり、2年半の従事を経て、2026年4月より同県飯舘村にある、環境と対話する実験基地「図図倉庫(ズットソーコ)」スタッフ。LAWS(Local Art Writers’ School)1期生。