「評価とは価値を引き出すこと」:源由理子に聞く、数値では測れない文化プログラムの評価

「評価とは価値を引き出すこと」:源由理子に聞く、数値では測れない文化プログラムの評価

合同会社エ・バリュー共同代表|源由理子
2026.07.04

文化庁が国立の博物館・美術館に対し、2026年度からの5年間の中期目標として、展示事業における自己収入比率の数値目標を設定したことが波紋を広げている。目標未達成の場合には館の 「再編」検討や「二重価格」の導入も議論されるなか、定量的な価値基準を前面に押し出した方針に、戸惑いや懸念の声も聞かれる。

2025年4月に設立された合同会社エ・バリューは、文化施設および文化事業の評価を専門に手がける、日本では数少ない組織である。共同代表を務める源由理子さんは、国際協力機構(JICA)や国際開発機構(FASID)などで社会開発プログラムの評価に携わり、資金提供者が設定する指標だけでなく、市民や事業に従事する職員らも評価の担い手となる「参加型評価」の方法論を実践・推進してきた。

「評価とは価値を引き出すこと」と語る源さんにとって、文化プログラムの本質的価値をとらえるための評価は、入場者数や単純化されたアンケート結果のみで測れるものではない。本稿では、「プログラム評価」【※1】の方法論を活用しながら、評価の実践と研究の双方の現場で事業評価に携わってきた源さんに、文化プログラムの価値をいかに捉え、評価すべきか、そのあり方について話を聞いた(本文中敬称略)。

源由理子さん

評価の原点:外から日本を見る経験

JICAやFASIDで国際的な社会開発に携わってきた源の原点は、子ども時代にテレビで見たアポロ11号の月面着陸のニュースにある。


源:
アポロ11号が初めて月面着陸に成功したのが、私が中学生くらいの頃でした。テレビで同時通訳が行われているのを目の当たりにし、通訳者の鳥飼玖美子さんが活躍されていて、「かっこいい、すごい」と感じたんです(笑)。「私も英語を話せるようになりたい」と思ったことがきっかけで、高校1年生の時にアメリカへ1年間留学しました。


アメリカ・オハイオ州の高校で過ごした1年間は、源に日本やアジアを相対化する視点をもたらした。


源:
その時に、「私は日本のことを何も知らないな」と気づきました。当時は終戦から30年ほどしか経っておらず、日本やアジアに対する偏見は、今より根強くありました。一方で、日本人自身も他のアジア諸国に対して固定観念や差別的なまなざしを持っているようにも感じました。外から日本を見たことで、いろいろなことに気づきました。


高校卒業後は、国際基督教大学(ICU)に進学し、日本思想史を専攻。卒業論文では、中国人留学生に対する日本の政策をテーマに据えた。日本とアジアの関係に関心を抱いていた源は、卒業後、JICAに就職する。


源:
私が就職したのは、男女雇用機会均等法が制定される前の時代です。民間企業に入っても「女性はお茶くみかな」と思い、公的機関であるJICAに就職しました。実際、海外出張の機会なども男女平等で、年に5、6回ほど海外へ調査に行くこともあり、学びの多い職場でした。


しかし、JICAに7年ほど勤務したのち、再びアメリカへ渡る。


源:
自分の専門を持ちたいと思ったんです。当時のJICAの職員は、開発援助や国際協力の領域における行政官のような立場なので、公共セクターにおける幅広いマネジメント能力が求められます。もう少し絞り込んだ領域の専門知識を身につけたいと思い、アメリカの大学院に進学し、非営利組織のマネジメントについて学ぶことにしました。

JICA勤務時代 ソロモン諸島への出張(医療協力プロジェクトの調査)

評価との出会い:ケニアで感じた「指標」と「現場」のずれ 

帰国後、FASIDに入職。評価専門家として、JICAが支援するケニアの貧困地域における開発援助事業の評価活動に参加する。そこで源が感じたのは、資金提供者が設定する指標と、現地に暮らす人々が実感する生活とのギャップだった。


源:
資金提供者側が設定した指標だけで成果を測ってよいのだろうか、と疑問に感じたんです。そこに暮らす人たちにとって「生活がよくなる」とはどういうことなんだろうと考えるようになり、評価に関する文献を読み始めました。すると、「価値判断こそが評価である」と書かれていたんです。だとすれば、スラムに暮らす人たち自身が、自分たちにとって何が「生活の改善」なのかを考え、その地域にとって本当に価値のある事業かどうかを判断していくことが重要なのではないか、と。文献を読みながら学ぶうちに、「評価って面白いかも」と思うようになり、今にいたっています。


FASIDでは、PCM(プロジェクト・サイクル・マネジメント)【※2】と呼ばれる国際協力分野の評価手法の確立にも携わった。源が重視してきたのは、資金提供者や専門家が一方的に指標を定めるトップダウン型ではなく、市民や実践者も評価の担い手となる「参加型評価」の考え方である。


源:
「評価しに来ました」と言うと、大抵いやな顔をされるか、顔に出なくても相手が構えている感じがよくわかります(笑)。一般的に評価というと、成績をつけたり、一方的に評価する側がコントロールしたりするものという印象がありますよね。でも、本来evaluationという言葉の定義は、やっていることの価値を引き出すことです。なので、評価は「結果や成果」を測定することだけではなくて、「何を価値あるものとするのか」、「計画は妥当なのだろうか」といった実施前の段階から始まります。参加型評価では、事業に参加する人たちとのインタビューやワークショップを通して、「何のためにやるんだろう」、「そのためにはどんなやり方が効果的なんだろう」と対話や議論を重ねていきます。もちろん根拠となるデータ・情報を共有しながら行います。そうすることで目的意識を共有し、「じゃあ、どうしたらもっとよくなるか」を一緒に考えていきます。私自身はファシリテーター役ですが、参加した人が対話を通じて変わっていったり、腑に落ちたという様子が見えるので、とても楽しいですね。


6年間勤めたFASIDの退職後も、フリーランスや民間組織に所属しながら、プログラム評価に携わり続けた。そこで源が実感したのは、参加型評価が事業だけでなく、組織そのものを変えていく力を持つということだったという。


源:
対話の場はそこに集うひとたちの関係性の質を変えます。弱さや失敗を次につながる課題として言い合えるようになり、変革を厭わない、失敗してもいいと思える組織風土になるんです。行政では特に、「計画行政」という言葉もあるように、一度立てた計画はその通りに遂行しなければならないという考えに縛られがちです。でも、実際に事業を進めると予期しなかった問題は必ず起こりますよね。その時に、「少しやり方を変えてみよう」、「予算配分を変えてみよう」とか、実施プロセスにおける動的な変化に対応して、創発的な思考【※3】で柔軟に評価・マネジメントをしていくことができる。実際、兵庫県豊岡市で参加型評価の導入を支援した際も【※4】、7年間続けるなかで、「失敗してもいいんだと思えるようになった」、「チャレンジ精神が生まれた」という声が多く聞かれました。


こうした参加型評価では、数値だけでは捉えきれない価値や、事業のプロセスそのものから生まれる価値を見つめる視点も重視される。源は、定量評価だけでは見えにくい価値を捉える「定性評価」や、成果だけでなく実施過程の改善に焦点を当てる「形成的評価」にも力を入れてきた。評価者の役割について、源は「ファシリテーターであり、編集者でもある」と語る。


源:
もちろんデータ収集・分析もしますが、それらのデータを踏まえて行う議論の場のファシリテーターでもあるし、最近は「編集者」に近い仕事だとも思うんです。KPI(キー・パーフォーマンス・インディケーター )のような定量指標で達成度を測る方法もありますが、私は、特に文化プログラムでは、定性的な部分をどう読み取り、意味づけするかが重要だと思っています。あまり要約しすぎても大事なものがこぼれ落ちてしまう。その意味では、何を残し、どう編んでいくかを考える編集者にも近いのかもしれません。

アーツカウンシル東京「キャパシティビルディング講座」における参加型評価ワークショップの様子 
(撮影:古屋和臣/出典:令和7年度東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」キャパシティビルディング講座2025 活動報告書・課題解決/価値創造戦略レポート集)

文化プログラム評価のあり方:〈プリンシプル〉から価値を捉える 

長年、国際協力、開発援助、社会開発の領域で評価に携わってきた源だが、芸術・文化の評価に参画するようになったのはここ7~8年のことだという。一般的なプログラム評価における「プログラム」が、主に社会課題の解決を目的とする活動・制度・組織体制のかたまりを指すのに対し、文化プログラムは必ずしも明確な課題解決を前提としないものが多い。源によれば、文化プログラムの評価では、数値目標ではなく〈プリンシプル〉に基づく評価が重要になるという。


源:彩の国さいたま芸術劇場が展開するシアター・グループ「カンパニー・グランデ」の事例ですが、10代から80代まで、障害の有無やプロ・アマの垣根を越えて、約120人の市民がパフォーミングアーツに取り組むプロジェクトの評価調査を行いました。芸術監督や事務局、財団職員、市民参加者、アーティストにインタビュー調査する中で、「この事業では何を大切にしているのか」という価値の核が見えてくるんです。それが〈プリンシプル〉です。それは一つである必要はなく、全員が同じ方向を向く必要もありません。ただ、多様な関係者の間で、プログラムの主催者側の狙いやそれぞれの想いを可視化し、ある程度納得できる価値観を共有することで、建設的な議論ができることが重要だと思います。


参加型評価を推進するなかで、源は「評価される側」として受け身の姿勢にとどまるのではなく 、「自ら評価できる人・組織になること」の重要性を強調する。


源:
評価とは価値判断です。それと同時に、特に文化プログラムでは、その価値が生成される過程を探求することです。そして、その価値判断を行うのは事業に取り組む皆さん自身です。公演に何人のお客さんが来たかは経営的には重要ですが、それだけでは事業の価値は捉えきれません。公演に至るプロセスの中で、公演に参加した市民や、鑑賞者にどのような認識の変化や行動変容があったのか。それこそが当事者にとっての価値だと思います。舞台であれば終演後にアンケートを取りますが、「満足しましたか」と聞いてもそのデータはあまり使えませんよね(笑)。そうではなく、「この舞台に何を期待していたのか」、「鑑賞後にどのようなことを感じたのか」といった自らが振り返る問いを、〈プリンシプル〉を踏まえて設計していくんです。


2024年度からは、文部科学省と日本学術振興会が実施する「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択された東京藝術大学主導のプロジェクトの評価にも携わっている。学長を務める日比野克彦を中心に進められている本事業は、香川大学や民間企業などとも連携しながら、アートにとどまらず科学や福祉、地域づくり等の異分野にもまたがる大規模な取り組みだ。


源:日比野さんに、「私は評価とは価値を引き出す行為だと思っています」と話したら、とても気に入っていただけて(笑)。コンサルタントも交えた藝大評価チームで、「アートが介在する事業をどう評価するか」、「どんな視点や方法論が必要か」を設計しているところです。私自身、アートはもともと好きでしたが、これまで接点のなかったような人たちと話す機会も多く、インタビューを重ねながら「アートの人って面白いな」と感じています。正解や決まりごとがなかったり、わからなさやもやもや感を面白がったり、違いそのものに価値を見出そうとする。そういうところに居心地のよさを感じますね。


アートの価値は定量的な指標だけでは捉えきれない。だからこそ、参加型評価の方法論が生きるのではないかと、源は語る。


源:事業が終わったあと、収集したデータを持ち寄り参加者同士でワークショップをして意見交換を行うのですが、それぞれが自分の中に生まれた変化を率直に語ってくれます。なかには、プロジェクト終了後に自分のコミュニティで新しい活動を始めたという人もいます。私が評価しているのはアートを通じた事業であり、アート作品そのものではありません。でも、アートには、新しい考え方や関係性が生まれる場や空間をつくる力があるのではないでしょうか。それは、論理では割り切れない、何か大事なものへの気づきや直感のようなものをそのまま引き取ってくれる場でもあるように思います。

まとめにかえて:評価文化が育つと失敗を恐れなくなる

2025年4月、源はミュージアム評価と博物館学を専門とする佐々木亨とともに、文化施設・文化事業の評価を専門に手がける合同会社エ・バリューを設立した。現在は文化プログラム評価の実践と発信に積極的に取り組んでいる


源:
佐々木さんも私も大学を辞めるタイミングと重なったことが大きな理由で、会社を設立することにしました。また、これまで科研プロジェクトでいくつかご一緒するなかで、実践と研究を往還する評価の面白さや魅力を実感していたことも、後押しになりました。佐々木さんとは、「あと5年早く会社を設立していてもよかったかも……」と話すこともあります(笑)。


冒頭で触れた、文化庁が示した国立の美術館・博物館に対する自己収入比率の数値目標について、源は、「私は博物館研究の専門ではないけれど」と断りつつも、評価が効率化や経費削減といった指標に偏ることへの懸念を示す。 


源:独立行政法人として収入源の多様化や経営努力が求められるのは、ある程度やむを得ないことだと思います。ただ、評価が効率化や経費削減といった指標だけで行われる傾向にあるとすれば、それは問題かもしれません。佐々木さんは、ミュージアム評価の出発点には、「博物館や美術館で学芸員が素晴らしい成果を上げていても、それが社会で十分に評価されていないことへの憤り」があると話されていました。 私自身は、非営利であり、市場経済の論理だけでは支えられないからこそ公的資金が必要とされる美術館・博物館の社会的な存在意義に関心があります。そしてまた、アートや文化の本質的な価値を評価し、それを言語化して社会に発信していきたいとも思うんです。


国際協力や社会開発の分野で培ってきた評価の方法論を、いま文化芸術の領域へと接続しようとしている源。しかし、その歩みは、最初から一本の道筋を描いて進んできたものではなかった。 


源:
私、結構転職もしているんです(笑)。大学院を出てからも論文は書き続けていましたが、大学教員になるとは思っていませんでした。今のアートの仕事も、好きで楽しくやっています。


振り返れば、そのキャリアは、あらかじめ決めた目標を一直線に目指すというよりも、その時々で関心のある方向へ舵を切りながら歩んできたものだったという。そうした姿勢は、固定化された計画に従うのではなく、対話と試行錯誤を重ねながら改善していく、源の評価観とも重なる。


源:評価論が発達したアメリカと比べて、日本では評価文化があまり根付いていないと言われます。そこには、「失敗を恐れる」、「失敗を隠す」気風もあるのではないでしょうか。でも、評価とは結果だけを見るものではありません。やってみてうまくいかなかったら、「次はこうした方がいいんじゃないか」と新しいアイデアが生まれる。そうやって変化しながら、変革的なプロジェクトが育っていくんです。評価とは、「問い続けること」であるし、「いろんなやり方があっていい」と力づけてくれるものだと思います。

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科における最終講義の模様

注釈

【※1】「プログラム評価」とは、社会調査手法を活用し、社会的介入プログラムの有効性を体系的に調査するアプローチ。ロジックモデル、評価5階層(複数の評価視点)等の考え方を活用して、対象事業の特性に柔軟に対応しながら評価を行うもので、その目的は改善・変革のための評価情報を提供することである。

【※2】開発援助プロジェクトの計画・実施・評価という一連のサイクルをロジカルフレームワークという表を用いて参加型アプローチで管理運営する方法で、FASIDでは1990年よりPCM手法の研究・開発・研修を行っている。

【※3】現場で行っている偶発的な環境変化の中で、関係者が内省的に振り返り、直感的に把握されるアイデアも含めた手段を試行錯誤しながら検討し、当初の計画とは異なる事業展開を生み出していく戦略思考。経営学者のHenry Mintzbergが提唱した。

【※4】兵庫県豊岡市では、2013年から従来の事務事業評価に代わり、協働型(参加型)プログラム評価の導入を試行した。導入にあたっては、当時の明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科の評価チーム(北大路信郷、源由理子、米原あき)が伴走支援を行った。

INTERVIEWEE|源 由理子(みなもと ゆりこ)

合同会社エ・バリュー共同代表。東京藝術大学芸術未来研究場客員教授。明治大学名誉教授。国際協力機構(JICA)、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授等を経て現職。専門は、評価論、社会開発論。改善・変革のための評価の活用をテーマとし、政策・事業の評価手法、自治体、NPO等の評価制度構築、関係者による参加型(協働型・協創型)評価に関する研究・実践を積む。近年は特に、社会福祉分野、文化芸術分野における関係者のエンパワメントや組織強化につながる評価のあり方に関心を持つ。主著に『プログラム評価ハンドブック〜社会課題解決に向けた評価方法の基礎・応用』(共編著、晃洋書房、2020年)、『参加型評価〜改善と変革のための評価の実践』(編著、晃洋書房、2016年)、『プラス・ミュージアム:地域文化資源としての博物館論』(共著、水曜社、2026年)など。

INTERVIEWER |山際 美優(やまぎわ みゆう) 

横浜美術館学芸員。1999年京都生まれ。専門は戦後アメリカの写真集、とりわけロバート・フランクやジョン・シャーカフスキーの作品など。