クィアや若手作家を応援するサードプレイス~platform3が作る居心地のいい世界~

クィアや若手作家を応援するサードプレイス~platform3が作る居心地のいい世界~

近藤 帝
2025.12.17

東京都東中野は、新宿から総武線で大久保の次に位置するローカル駅だ。大都市新宿駅と、コリアンタウンの大久保駅、中野区役所もある発展都市の中野駅に挟まれた知る人ぞ知るエリアである。
総武線のその先には、サブカルで人気のスポットの高円寺駅や阿佐ヶ谷駅があり、その先には都内で住みたい街ナンバー1とも言われている吉祥寺駅が存在する。そんな谷間である東中野に、ひっそりと、そして着実に存在感を出している新しいアートスペース「platform3」が2024年8月20日にオープンした。
「platform3」はオープンしてから1年しか経っていないが、国内外のアーティストやゲストが多く来訪している。また地域の人だけでなく、国内外からクィア(※既存の性の概念やカテゴリにとらわれない人々を包括的に指す言葉)の方が訪れる本屋・イベントスペースとしての顔も持っている。今回、「platform3」を立ち上げた共同経営者のともまつりか氏と、丹澤弘行(たんざわひろゆき)氏に話を伺った。

左から、ともまつりかさんと、丹澤弘行さん。
※共同経営者には他に潟見陽(かたみよう)さんも氏がいるが本日は欠席。

3人の出会い、platform3ができた経緯

——1周年おめでとうございます。どんな1年でしたか?

ともまつ:あっという間に1年が経ったね、て言っていたのが8月で、そこからほんとにあっという間に11月になろうとしてる(※取材時は10月下旬)。バタバタと過ぎていって、とにかく充実した1年でした。

丹澤:3人それぞれ違う仕事もしてるので、忙しくない時がなかった1年でした。こういう場をやっているからこそ、次はこうしたいなというアイディアが生まれることも多く、自分の刺激になっていて嬉しいです。


——オープンして、たくさんのお客さんやアーティストが訪れたと思いますが、まずは設立のきっかけを教えてください。

ともまつ:元々、私は普段カメラマンや映像作家【※1】として活動していて、丹澤くんとは「やる気あり美【※2】」というプロジェクトで一緒に制作をしていました。友達として仲が良かったんです。あるきっかけがあって、丹澤くんと「ZINE」をつくることになったのがそもそものスタートです。


——その「ZINE」はどんなものですか?

ともまつ:『Sleepless in Tokyo』というインタビュー冊子で「孤独な夜」というテーマで、3人の人物にインタビューをして、後に共同経営者にもなる潟見さんもその一人。この時に私は潟見さんと出会いました。

出版ユニット「(TT) press」で二人が初めて制作したZINE『Sleepless in Tokyo』。インタビューに答える潟見陽氏。

——設立前に、ともまつさんと丹澤さんのお二人の活動が始まったわけですね?

ともまつ:そうなんですよ。潟見さんにも「2人で何かやってみたら?」と提案されて、ライター・編集者として活動している丹澤くんと、写真家の私で、出版ユニット「(TT) press(ティーティープレス)」を立ち上げました。


——面白いネーミングですね。名前の由来は何ですか?

ともまつ:単純に、ともまつのTと丹澤のTです(笑)。でも、韓国にデザインスタジオ「6699press(ロクロクキュウキュウプレス)【※3】」というのがあって、6699が顔文字みたいで面白くて、私達もTTを顔文字っぽいと感じて決めました。それが2023年くらいです。


——そこから「platform3」が出来上がるまでの経緯を教えてください。

ともまつ:自宅で予約制の本屋をやっていた潟見さんが、場所を広げたいと思っていろんな人に共同運営の声をかけていて、その中のひとりが丹澤くんでした。丹澤くんに持ち掛けられて、おもしろそう、と思って、やってみようということになりました。



名前の由来、アートスペースとしての想い


——元々の構想も本屋だったんですか?

ともまつ:潟見さんが、大久保で「loneliness books【※4】」という本屋をやっていて、それを広げたいということで本屋という構想でした。ただ潟見さんはただの本屋にしたくなくて。イベントをやったり、色々な人が集まるスペースにしたい、と。


——「loneliness books」はどんな本屋なんですか?

ともまつ:アジア各地のクィア、ジェンダー、フェミニズム、孤独や連帯にまつわる本やZINEを集めたブックストア兼出版です。


——もし本を仕入れて売るだけが目的なら参加はしていなかったですか?

ともまつ:私達を誘ってくれたのも本屋を一緒にやってほしいというよりは、イベントとか場作りをやってほしいということで声をかけていただいて。本屋だけというよりも、一緒にイベント作りをすることにワクワクしました。


——場所を東中野にしようとした理由は?

ともまつ:潟見さんは最初、大久保がいいと言っていて、そのあと早稲田でも探したんですが条件的に難しくて。丹澤くんがたまたま東中野のここの物件を見つけて。行ってみたら、窓が全面に広がっていて解放感があるし、駅から近いし、家賃もお手頃で(笑)、3人とも一致しました。

本を囲むように窓が広く配置され、採光が室内を明るく照らす心地よい空間。

——「platform3」という名前にしたのはどんな理由が?

ともまつ:JR東中野駅って1番線と2番線しかないんですけど、お店の位置がちょうど3番線の位置だったので、「3番線」の意味である「platform3」にしました。他にも潟見さんと丹澤くん、私で3人という意味もあるし、来てくださる方にとってサードプレイスであってほしいという想いもありました。

目の前にJR東中野駅が見える、好立地。まるで3番線に位置するかのよう。

ソファを置く理由、対話ができるスペースへ


——オープンしてからお客さんの反応はいかがでしたか?

ともまつ:最初はイベントを実施したアーティストの知り合いや、loneliness booksの元々のお客さんなどが来るのかな、と思ったら意外と地域の人たちも来てくれて。ハロウィンイベントで子どもたちがお菓子をもらいに遊びに来たり、近所の人が、「新しいお店ができたの?」とフラッと遊びにきてくれたのが意外でしたね。

丹澤:
最近は地域の人たちとの関わりも増えてきて、単発のイベントだけでなく地域を盛り上げていきたいという東中野への愛着も増してきました。


——オープンしてから間もないと集客に悩むものですが、沢山の人が来てくれていたんですね。

ともまつ:そうですね。アーティストの展示をコンスタントにやっているので、初めてきました、という人も多いです。


——駅から徒歩10秒だと、初めての人も訪れやすいのも魅力ですよね。

ともまつ:新宿駅から2駅というのもあってアクセスは抜群ですね。東中野駅からも出口の目の前なので雨の日も傘いらずです。あとは海外からのお客様も多く来てくださって。「東京 クィア」とか「クィア 書店」とかで検索すると出てくるのもあり。あとは海外の作家さんのイベントをやったりすると、ファンの方も来てくださいます。

改札を出て、階段を降りた目の前に位置するビルの4階にある「platform3」。

——地域の人と、グローバルなお客さんとは対極な客層なんですね。

ともまつ:そうですね。立地の良さで迷わずに来れるし、フラッと入れるのが魅力です。


——本屋とイベントスペースの融合というのも一つの魅力ですね。

ともまつ:イベントスペースだけだと敷居が高いですし、本があることで逃げ場があるというか緊張感が和らぎます。逆に本を探しに来た人が、展示に興味を持ってもらえる。本屋をやっていることでこういう良い面があるんだ、と知りました。

イラストや写真展など、展示イベントを定期的に開催している。特に若手作家への支援が大きい。

——来てくださるお客さんとは交流もありますか?

ともまつ:本屋だけだと会話をする機会は少ないこともありますが、イベントや展示をやっていると結構あります。platform3にはソファが置いてあって、潟見さんが「長居してもらいたいから絶対置きたい」と。ゆっくり本を読んでる人もいるのがすごく嬉しいです。

本屋には珍しくソファが置いてあり、座りながらゆっくり読めるようになっている。

——印象的だったお客さんはいますか?

ともまつ:私達3人のすごい好きなエピソードとして、てらおかなつみ【※5】さんの犬のイラストグッズを「platform3」に沢山置いているんですけれど、ファンの方が来てくれたんですよ。そのときに、「カミングアウトをされた友達に本をプレゼントをしたい」と声をかけてくださって。

てらおかなつみさんなど、アーティストのグッズも販売している。

ともまつ:アーティストさんのキッカケで、そういう広がりもあるんだって感動しました。その子の(カミングアウトをした)友達もそのあとに来てくれて、本当嬉しかったです。

居心地のいい場所づくりを目指して


——アーティストの展示企画はどうやって決まるのでしょうか?

ともまつ:今は持ち込み企画が多いかな。あとは3人の知り合いが来てくれて「こんなことができそう」と決まることもあります。


——出展費などはかかりますか?

丹澤:費用などは特に決めておらず、その団体やアーティストと都度相談をしながら決めています。展示の種類も様々ですね。


——展示だけでなくイベントもされていますよね?印象に残っているイベントはありますか?

ともまつ:バンドのライブもやりました。シンガーソングライターの方に演奏をしてもらったり、バンドのイベントをやったり。文学系のイベントだけなくお店を使った音楽イベントも開催しています。

丹澤:
去年は東京アートブックフェアのアフターパーティーを自主的にやりました。出店者の人たちが自主的に集まってくれて。国内外の参加者が交流を深めて、とても楽しかったです。


——国内外の展示やイベントを実施するうえで気をつけている点はありますか?

丹澤:例えばヌードの表現がある展示などの場合は、あらかじめその旨、注釈を載せています。また、フェミニズムだったり、アジアンカルチャーというテーマの軸はあるけれど、できるだけ色々な人が来てくれるスペースでありたいですね。


——最後に読者やアーティストの方、アートに参画してみたい人へメッセージをお願いします。

ともまつ:個人的にはタイに興味があるので、タイのイベントだったりアートを紹介したいです。

丹澤:どんな人でも気軽にまずは遊びにきてください。隠れ家っぽい感じがあるので、あなたにとって居心地のいい場所を作っていきたいと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

関連情報

platform3公式インスタグラム

注釈

【※1】ともまつりか:カメラマン・映像作家としても活躍している。

【※2】「やる気あり美」:※11人のゲイやビアンやノンケが、WEBサイトやイベント、ポッドキャストなど運営していた有志によるプロジェクト団体。

【※3】「6699press(ロクロクキュウキュウプレス)」:韓国にあるデザインスタジオ。

【※4】「loneliness books(ロンリネスブックス)」:元々は大久保にあったアジア各地のクィア、ジェンダー、フェミニズム、孤独や連帯にまつわる本やZINEを集め、アジアの小さな声を紡ぐブックストア&出版社。現在は「platform3」と共同で運営されている。

【※5】てらおかなつみ:色鉛筆や鉛筆を使った柔らかいタッチで描く犬や動物の絵が人気のイラストレーター。


‍(上記全URL最終確認2025年12月17日)

INTERVIEWEE|
ともまつりか

岐阜県出身、東京都在住。写真家・映像作家。
出版ユニット「(TT) press」のメンバーとしても活動しており、2024 年 8 月にクィア書店「loneliness books」と共同で本と人が集まる場所「platform3」を東中野にオープン。


丹澤 弘行(たんざわ ひろゆき)

インディペンデントな出版ユニット「(TT) press」のメンバー。読んだり書いたりすることが好き。東中野で書店「platform3」を営む。


INTERVIEWER|近藤 帝(こんどう みかど)

ライター、編集者。1980年生まれ、東京都出身。東京藝術大学映像・舞台芸術実験授業を修了(「現代テレビ論」碓井広義教授に師事)。主にアプリ紹介メディアやエンタメメディアを中心にライター、編集者として活動中。Local Art Writer's School(LAWS) 第1期生。

ポートフォリオ|近藤帝(ライター)