GAKUBI 49 私たちの作品へ

February 6, 2023

+5の記事、「GAKUBI(在日朝鮮学生美術展)49 狭間から視る世界〜ウリハッキョから美術を通して〜」に関連して、本記事では49回大阪展の会場にいた、生徒たちの作品に対する想いを記録する。取材に合わせてその場にいた生徒数名がプレゼンテーションをしてくれた内容を、作品の写真と共に一部掲載したい。

大阪展の会場の様子

大阪展:2022年11 月16日(水)~20日 (日) 東大阪市民美術センター

リャン・アキさん|中級部1年

「なんで作ろうと思ったかというと、SNSで手の不自由な人の生活を見て、服を楽に着替えられて、おしゃれができるようにドレスを作りました。作ることを家族に言うと、親戚がミシンを買ってくれました。ミシンを使うのは初めてで、難しかったが、練習してできるようになった。時間をかけて作りました。完成できるか怖かったが、できました。」

《着やすいドレス》リャン・アキ


パク・ソナさん|中級部1年生 

「この絵を描こうと思った理由は、小学生の頃の一番印象に残っている出来事があって、その頃を振り返って記憶のまま絵に写してみました。景色や鳥の色などは、全て誇張して描きました。地球とか雲などの景色、風景を描くのが一番難しかったんですけれど、やってみたら楽しかったので、また描きたいなと思いました。

この絵を描きながら、自分が小学生の頃をどうやって過ごしたのか、もう一度思い出してみて、「こんなんもあったなあ」とか、いろいろ思い出せてよかったなと思いました。」

《あの日みた鳥》パク・ソナ


キム・ソンファさん|中級部2年(作品2点)

「この絵を描こうと思った理由が、自分の家庭があんまり裕福な方じゃなくって、結構生活いつもギリギリみたいな感じなんで、「貧困というかそういうのをテーマに描こうと思いました。この絵には物語があって、絵の世界では、上の人間と下の人間がおり、貴族と奴隷のような関係があります。ここに写っている女の子は奴隷です。奴隷は働かされて、貴族は遊んでいます。それで奴隷の個性を奪って貴族は生活していて、配線の中に奴隷たちの個性とかが吸い込まれて。ひとりの奴隷の女の子は、自分だけの個性を持っていて、奪われても消えなくて。彼女はこういう上下のある世界は嫌だと思って耐えてきていて、成長して、計画を立てていて。立ち入り禁止の世界は、外の世界で。そこにはまだ誰も行ったことのない世界で、そこにいこうとする女の子を追ってきている。けど、女の子は自分の世界、縛られない世界に行っていて。下の方は、紙がどんどん燃えていっているのですが、もう入れないところなんです。女の子は社会の反逆者として旅に出たんです、自分と同じ仲間を見つけるために。」

《自分らしく》キム・ソンファ

「これはテーマをスマホにしていて、自分は学年の中でひとりだけスマホを持っていなくて、周りがスマホを触っているとさみしいなと思うことがあって。

絵では、女の子以外、みんなスマホを見ているんです。それで両手塞がっているので、手がありません。電車が事故で折れてしまい、人々は落ちていってる。スマホを持ってない自分だけがすぐに気づくことができるが、他の人たちは、落ちてゆく、その中で落ちていることに気付いた人は、手が戻っていく。

ここのクラゲは、自分いつも他の人がスマホ見ているときに、何もやることないんでたまに空見たりするんですけど、そのときによく「空がきれいだな」とか、帰る時とか日が落ちている時間なので、結構いろんな色が出てたりするんで、それをクラゲで表現してみようかなと思って。」

《スマホが引き寄せる危険》キム・ソンファ


コ・ファリョンさん|中級部3年

「この作品を描こうと思った理由は、最初は描くネタがなくて、1,2年の時に描いた絵を振り返って描いてみました。この中には計6この作品がひとつにまとまっています。額縁から絵が飛び出てるように描いていて、これが私が3年間描き続けた絵なので、卒業すると同時にこの絵からも放たれている感じです。鹿は初登場ですが、あとは今まで描いた作品です。」

《光と行先ー行ってきます》コ・ファリョン


チョ・チヒョンさん|高級部2年

「高校2年に進級した時に、初めから嫌なことがたくさんあってこの絵を描こうとしました。まず真ん中の人は、体つきは少年なんですけど、特に性別は決めてなくて。今を生きる高校生たちは色々複雑な感情や葛藤を抱えていると思うんですけど、そう言うのは男女に限らず、全ての人にあると思うので、中性的と言ったら人によって捉え方が違ったりするんですけど、人によって男性とも見えるし、女性とも捉えられるようにしています。

周りの4つは自分の感情を表していて、それらは全て構図などを考えず、フィーリングで描いているんですけど、その方が今の自分の感情を100%出すことができるように思ったので、あえて構図は練らずに、その時の自分の気持ちで描きました。これは口に見えると思うんですけれど、口の中にあえて色をつけたのは、苦しみとか悩みごとは嘆いて、叫ぶことは自由なんだよということを言いたくて色をつけました。」

《コクハク〜告白と黒白〜》チョ・チヒョン


キム・リスさん|高級部2年(作品2点)

自分のもどかしい感情を表した絵です。もどかしさを氷の壁として表しているんですけれど、純粋に自分のもどかしさを伝えたくてこの絵を描きました。自分が素直になれたらいいんですけど。

《掉棒打星》キム・リス

「この作品は、矛盾している感情について考えていて。自分の矛盾している感情が、他人ありきやなぁって思っていて、それで参加型にして、自分の感情(紙粘土の作品)を実際に持ってもらったりして、それで自分の考えていることを表せたらなぁって。紙粘土は本当は積み木でやろうとしていたんですけど、木は木の色があるので、自分で着色できる紙粘土がいいかなって思いました。そういう扱いやすさで紙粘土にしました。」

《空腹以上満腹未満》キム・リス

パク・リョンジュさん|高級部3年

「自分が小さい頃に、プールの帽子とかを被って夏感があるというのもあるし、明るいイメージがあって、そういうものを絵にひとつ、余白が多かったので入れてみようかなと思ってひまわりを入れました。

私は、「大人になったら小さい時のように笑えることが少なくなっていく」という考えがありまして。自分が小さい頃の写真を引っ張ってきたら、一番個性が出る写真があって、それをモデルに描かせていただいたんですけど。大人になると社会に揉まれて消えていく個性がすごくもったいなあという意味を込めて、これを描きました。

いろんな個性があるっていうのを表したくて、あえて描いてるひまわりも、茶色と黄色だけじゃなくて、他の色を使ってみたり。あとは、立体とかもつけてみたり、という工夫をしました。」

《This is me》パク・リョンジュ

キム・クァルムさん|中級部2年 

動物園のフラミンゴが好きなんです。ある時テレビとかで、フラミンゴの特集をしていて、それで聞いたのが、フラミンゴって最初雛の時は白くて、それで両親が〔聞き取れず〕してくれることによって、綺麗な色になっていくんですけど。で、人も愛を受けた分だけ、親の心が受け継がれていくと思うんですよ。なんかでも、人ってそのまま受け継ぐことはできないじゃないですか。自分の意思もあるし、親そのままってわけにもならないじゃないですか。だから、なんて言えばいいのか、素直に愛を受け取ることもできないし、できないけれど、結局今まで育ててくれたのはお母さんたちやし、そういうことについて描いて。今まではお母さんやお父さんの言う通りに生きていたら大丈夫やったけど、中学生になったら自分の意思で生きていかなあかんし、いろんな人と関わっていく分、感情もすごいぐちゃぐちゃになったりしちゃうけど、それを悪いことやとは決めつけず、これから自分がどうやって生きていこうかということについて描きました。

《私が生きる道》キム・クァルムさん

おわりに

第49回は、全国12会場で開催された。筆者は兵庫展、京都展、大阪展と3つの会場に足を運び、数多くの作品を鑑賞した。幼稚班の作品から初級部、中級部、高級部と順に作品を見ながら、自分は幼少期、あるいは10代の頃、どんなことを考えながら生活していたのだろうかと、ぼんやり考えていた。幼少期に虫取りをしたこと、中学生時代のしょうもない遊びや高校生のスポーツなど、不思議と彼らの作品を見ていると、記憶の下層に眠る思い出が、ほこりを被って出てくるようであった。学生展というのは通常の鑑賞体験に加え、特に自分の辿ってきた過去を追体験するような機能もあるのかもしれないが、同時に悔しくも思った。


もし、自分が10代のうちに彼らの作品を見ていたら、10代のうちに感じられたこと、考えられたことがもっとあったかもしれないと。朝鮮学校だからこそ語れる表現も、学美の中には必ずある。あの頃の「僕」がそれを見ていたら、その目にこの作品はどう映ったのだろうと。

もし今、10代ならば、と。

皆さんが近くの学美会場を訪れた時、筆者と同じような感想を持つのか、ぜひ伺ってみたい。


WRITER|桐 惇史(きり あつし)

+5 編集長、ART360°プロジェクトマネージャー。

1988年京都府生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業後、学習塾の運営に携わりながら、海外ボランティアプログラムを有する、NPO法人のプロジェクトリードに従事。その後、ルーマニアでジャーナリズムを学び、帰国後はフリーランスのライターとして経験を積むかたわら、大手人材紹介会社でコンサルティング営業、管理職として組織マネジメントなどに携わる。現在は360°映像を通した展覧会のデジタルアーカイブ事業「ART360°」の推進に関わる。